INTERVIEW

父から映像への思いを受け継ぎ
策定した理念をみんなで育てる

興味のあるトピックが一つでもあれば、この記事がお役に立てるかもしれません。

  • 事業拡大や環境の変化を経て、軸となる「理念」の必要性を感じている
  • 経営者ではなくメンバーが主体となる理念策定プロセスとは?
  • オンラインでも一体感を生んだ理念浸透イベントについて知りたい

長崎県川棚町で1988年に創業し、結婚式を中心に映像制作を手掛ける株式会社ビデオハウスHVC。代表の久家智浩さんは20歳のときに父親から事業を引き継ぎ、事業を拡大して全国展開を果たしました。しかし、コロナ禍で売上がほぼゼロになるという苦境を経験。そこから「社員が同じ方向を向くための指針が必要」と考え、企業理念の策定に取り組みました。さらに浸透活動に力を入れたことで、会社にはどんな変化が生まれたのか。創業の原点から理念策定のプロセス、未来への思いまで、久家さんに伺いました。

(聞き手:企業理念ラボ代表 古谷繁明)

父が始めたカメラの仕事を、20歳で引き継ぐ

―御社の創業からの歴史を教えてください。

 

もともとは僕が5歳だった1988年、父が長崎県の川棚町で創業しました。父はカメラが趣味で、高校時代は写真部に所属。自動車学校の先生をしながら、週末に結婚式の撮影を個人で請け負っていたところ、たまたま学校の幹部が結婚式に出席されていて撮影の副業が見つかってしまって…。それをきっかけに、撮影を本業にしようと独立したと聞いています。結婚式場と契約し、副業で手伝ってくれる人たちと一緒に、1日に最大11組の撮影を任されるようになりました。

 

 

―久家さんは家業を継ぐつもりでしたか?

 

そんな気持ちは全くなく、福岡の大学に進学しました。でも、19歳のときに父がガンになり、余命1年と宣告されました。ただ、そのことは父本人には伝えていませんでした。父の身体がきつそうだったので、手伝いたくて長崎に戻り、父のアシスタントを始めました。そこで初めて父の仕事について深く知り、人々の幸せな瞬間を形に残せる、すごく素敵な仕事だなと実感。父が亡くなった後、当時10歳だった妹が成人するまでは頑張らなければと思い、自分が継ぐことを決意しました。

 

―20歳という若さで事業を引き受けて、どのように組織を大きくされたのでしょう。

 

父が亡くなって、今年で26年になります。最初は個人事業として、父が残してくれた長崎の契約会場を守りつつ、将来的な発展を見据えて福岡にも拠点を構えました。また、フリーランスとして手伝ってくれていたスタッフに福利厚生を整え、安心して働ける環境を作りたくて、2012年に法人化しました。そこから少しずつ仲間が増えていきました。

 

 

大きな転機となったのは2020年1月です。上場しているウエディング会社との契約を機に業務が拡大し、他社からスタッフを受け入れたことで、一気に規模が大きくなりました。しかし、すぐにコロナ禍に入り、売上がほぼゼロに…非常に苦しい時期を経験しました。現在はウエディング部門と企業向けの映像制作部門を分社化し、ウエディング部門の当社には30人ほどの社員がいます。

コロナ禍をきっかけに「会社の向かう先」を明文化

―コロナが少し落ち着いてきた2022年末、当社に理念策定についてご相談いただきました。改めて、どんな背景があったのか聞かせてください。

 

以前、所属していた経営者団体で、経営には理念が大事だと学んでいたので、いつか作りたいと思っていました。コロナ禍に見舞われた中で、やはりスタッフの指針となるようなものが必要だと感じ、仕事ぶりを拝見していた古谷さんに相談しました。

当社のスタッフはクリエイティブに対する意識がとても高く、個々の技術は素晴らしい。しかし、個性の強いクリエイター集団ゆえに、会社がどこに向かっているのかを明文化することで、クリエイティブの方向性をコントロールし、将来像を共有する必要性を感じていたのです。また、離職を防ぎつつ、会社に愛着を持ってほしい、思いを言語化することで共感してくれる仲間を集める採用にも活用したいと考えていました。

 

 

―どのようなプロセスで進めましたか?

 

プロジェクトメンバーは役職者を中心に立候補してもらいました。取締役から20代の女性スタッフまで、福岡と富山、東京、長崎といった異なる拠点から僕を含めて6人のメンバーにしました。2023年5月から半年かけてミーティングを8回実施。創業当時のことを知るために僕の母にインタビューしたり、取引先の方々に話を聞いたりして、自分たちの根底にある価値観を掘り起こして議論しました。

 

―御社にはもともと「人を描く」というコンセプトがありましたね。

 

はい、クリエイティブの指針として「人を描く」ことを大切にしていました。僕らは結婚式を中心に、人の感情や表情、その瞬間を映像に残す仕事をしています。その根底の思いを起点として、ミッション・ビジョン・カスタマー バリュー・スピリットを考えました。

 

 

―プロジェクトを進める中で、苦労したことはありますか?

 

活発に意見を出し合いながらも、驚くほどすんなりと進みました。メンバーのベースにある感覚や価値観がかなり近かったのです。僕はいちメンバーとしてフラットに参加し、メンバー主導で熱のある議論を重ねました。

ビジョンは「多様な想いが響きあう世界をつくる」、ミッションは「人を描き、人をつなぐ」など、完成した言葉を見たときは、メンバー全員が心から納得していました。プロと一緒に策定できて本当に良かったし、すごく満足しました。リリースしたときも社員が「しっくりくる」と受け入れてくれて、うれしかったです。

理念を教えるのではなく、社員みんなで育てる

―理念策定後、どのような浸透活動に取り組まれましたか?

 

理念は作って終わりではなく、社員みんなで育てていくものだと考えています。そこで御社から聞いた他社の事例を参考にして、2025年5月から社員主導で浸透活動をスタートしました。1期目は管理者やマネージャを中心に選んだ5人のメンバーが、企画から実施まで担当してくれました。

ひとつは、オンラインで全社員が集まって、グループワークを実施。例えば、策定したスピリットのひとつ「挑め、わくわくへ」について、「実際の業務でどんな体験があったか」を深掘りして共有。また、各スピリットを最も体現している社員をみんなの投票で選んで表彰しました。さらに、社員がチームに分かれて、理念のテーマに沿った映像作品を制作して発表し合うアワードも開催しました。

 

 

―映像会社ならではの素晴らしい取り組みですね。社内の反応はいかがでしたか?

 

オンラインでの開催でしたが、画面越しでも伝わってくるほどの一体感と、終わった後のみんなの高揚感がすごかったです。拠点はバラバラのメンバーたちが本気で企画・構成し、テーマにピッタリの素晴らしい映像を作り上げてくれて、非常に盛り上がりました。

 

―2期目となる2026年も活動を続けていますか?

 

今期は人事を中心に入社2〜3年の若手社員を含む4人に任せています。先日はカスタマーバリューについて、オンラインでグループディスカッションを行いました。私は口出しせず、いち参加者として見守っています。

 

 

ブレイクアウトルームを覗くと、みんなすごく良いことを言っていました。誰もが理念の言葉を自分なりに解釈し、実際に業務の中で体現していて。総評でも伝えたのですが、策定した言葉に、みんなで魂を入れていっている状況だと感じました。言葉に魂が入り、どんどん成長していることを実感できて感動しました。

 

―社員を信頼して、企画から任せていらっしゃるのですね。

 

そうですね。策定した理念の言葉自体に軸があるので、解釈が大きくブレることはないと感じています。

「人を描く」映像で、ときを越えて価値を届ける

―今後、理念や会社をどのようにしていきたいですか?

 

AIで映像を簡単に生成できる時代になりました。でも、「人を描く」という感情の部分、その瞬間を撮影することは、やはり人にしかできないと思っています。僕らは、人の感情をいかに映像で撮るかにアンテナを張っています。そして、何十年も経つにつれて価値が高まっていく映像を残したいと考えています。

 

 

僕の妹が結婚したとき、妹を溺愛していた父が生前にたくさん撮っていた映像を式で流しました。父の声が聞こえて、ときを超えて父が残した映像に新しい価値が生まれ、みんなに大きな感動を与えてくれました。そのとき、映像を残すことは本当に素敵な仕事だなと父に感謝し、映像には人の心を動かす特別な力があると確信しました。

だからこそ、世の中をいい方向に変えられる映像をたくさん残していきたい。当社は「多様な想いが響きあう世界をつくる」というビジョンを掲げています。僕らの映像が人の役に立ち、平和につながるような、大きなことを成し遂げる会社でありたいと思っています。

 

―今後、理念をどのように活用していきますか?

 

理念は完成するものではないと捉えています。いろいろな体験を共有して、言葉に魂を入れながら、育てていくものだと思っています。解釈はたくさんあってもいいし、一人ひとりが自分の言葉で理念を伝えられるようになり、その思いに共感して「一緒に働きたい」と思ってくれる仲間が増えたらうれしいです。

「日本一、結婚式を撮影する会社」を目指す

 

―最後に、会社の展望について聞かせてください。

 

日本は少子化に向かっており、ウエディング業界は縮小産業と言われています。でも、結婚式は単なるイベントではなく、両家をつなぎ感動を共有するかけがえのない文化として価値があると実感しています。これからも映像を通して、結婚式の素晴らしさを伝えていきたいです。

僕らは「日本一、結婚式を撮影する会社」を目指しています。現在、年間約5000件の結婚式を撮影していますが、まだまだスタッフや件数を増やしていけると思っています。ただ、単に人数を増やすのではなく、僕らの思いに共感し、一緒に素晴らしい仕事をつくり上げてくれる仲間を増やしていきたいです。

父が始めたカメラの仕事を継いで26年、今はその仕事の意味を社員みんなで言葉にして、育てています。これからも「人を描く」という思いを胸に、一瞬一瞬を映像に残し続けていきます。

 

「企業理念ラボ」には、

企業理念の言語化や浸透策の
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企業理念ラボにちょっと相談してみる。 | 企業理念ラボ 理念を作ったその後に、9割の企業が直面する「“浸透の壁”」を乗り越える具体的な方法と事例を解説

株式会社ビデオハウスHVC 

久家 智浩さん

長崎県東彼杵郡川棚町で父が創業した映像制作事業を20歳で承継する。2012年に法人化し、代表取締役に就任。結婚式を中心とした映像制作事業を全国15拠点で展開。

会社情報

社名
株式会社ビデオハウスHVC
代表者
代表取締役 久家 智浩さん
本社所在地
長崎県東彼杵郡川棚町小串郷824-4
従業員数
正社員30人、委託カメラマン100人
創業
2012年5月
事業内容
ウエディング映像制作全般、ウエディングフォト撮影編集、各種イベントムービー
会社サイト
https://www.videohouse-hvc.co.jp/
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