COLUMN

中小企業・ベンチャーのための企業理念/MVV超入門❷

MVV策定が成功する
社長の関わり方

MVV策定が成功する社長の関わり方

事業拡大、事業承継、M&Aなどにともなって、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)等の企業理念を策定もしくは改定したいという企業の皆様に、15年にわたり中小企業・ベンチャー企業の理念策定・浸透に携わってきた「企業理念ラボ」代表の古谷繁明が、そのノウハウをお伝えする本連載。

 

第2回は、「MVV(企業理念)策定に社長はどこまで関わるべき?」という質問にお答えしていきます。MVVは組織にちゃんと浸透してこそ意味があります。本当に「効果」が出る社長の関わり方とは?

この記事では、以下の3つのことがわかります

  • どこまで社員に任せるか
  • 忖度させない関わり方
  • 浸透で失敗するケース

解説するのはこの人

古谷繁明

「企業理念ラボ」代表 理念浸透アドバイザー 古谷繁明

1979年、熊本生まれ。東京大学工学部卒業後、伊藤忠商事、パラドックスを経て現職。15年にわたり、経営の移行期を迎えた数々の中小企業・ベンチャーの理念策定・浸透にたずさわる。元プロキックボクサー(J-network バンタム級1位)。

MVV策定が成功する「社長の関わり方」とは?

第1回「MVV策定が成功する社内メンバーの選び方」で、社員数30名以上であれば、社長が直接陣頭指揮をとるより、次世代メンバーを中心としたプロジェクトチームに任せた方がいいと書きました。

 

組織規模や成長フェーズによって、MVV策定に社長がどのように関わるかは変わってきます。しかし、社長がまったく関わらないMVV策定はあり得ません。必ず何らかの形で関与していただくことになります。

 

社長の関わり方には、大きく分けて2つあります。

 

一つは、社長の頭の中にある考え方を、MVVとしてそのまま言語化していくパターン。これには創業間もないベンチャーで、まだ一度もMVVが明文化されたことのない企業が当てはまります。私がこれまで手がけてきたケースでは、理念浸透アドバイザーと社長が1対1でインタビューを重ね、考え方を整理した上で、最後にプロのコピーライターにわかりやすく浸透しやすい言葉に落とし込んでもらいます。

 

もう1つは、MVV策定のプロジェクトチームを社内で立ち上げ、そのメンバーが中心となって言語化を進めていくパターンです。このケースでは、社長はあくまで「サブ的な立ち位置」となります。実は、MVV策定では、こちらのタイプを採用した方が適切な企業が圧倒的に多く、私の体感値では8割以上が該当します。

 

そもそも、従業員数30名以上の会社なら、社長一人でMVV策定をしない方がいいと提案しています。理由はシンプルで、社長が一方的に発信しては社員に伝わりづらく、浸透も難しくなるからです。次世代メンバーが積極的に参画してMVVを作ることで、その後の組織への浸透が格段に進めやすくなります。

MVV策定を「自走できる中堅」を育成するチャンスに

ただ、その場合も「プロジェクトチームに丸投げ」は厳禁です。

 

主役はプロジェクトチームに預けながらも、いかに社長が上手に関与するかが鍵になります。例えば、私が関わるMVV策定では、プロジェクトの序盤・中盤でプロジェクトメンバーから社長にインタビューしてもらう機会をもうけるなどします。またプロジェクト始動前に、理念浸透アドバイザーから社長に1対1でインタビューし方向性をしっかり握っておくようにします。

 

こうしたプロセスを踏むことで、社長の言葉を確実にMVVに反映しつつも、MVV策定の「主体」を次世代メンバーに移し、「自走できる中堅や経営幹部」の育成に繋げられるからです。つまり、MVV策定」と「人材育成」を一度に進められる一挙両得な取り組みにできるのです。

着手する前に、社長の中で準備しておきたいこと

ただし、いくつか注意点があります。

 

一つは、「社長vs.プロジェクトメンバー」の構造を作らないこと。

 

この構造に陥ってしまうと、社長としては、メンバーがあらぬ方向へ議論を運んでしまうのではないか、自分の意図が正しく反映されないMVVになってしまうのではないかと不安になり、直接あれこれ口出ししたくなってしまいます。そして、結果的にプロジェクトメンバーを萎縮させ、忖度する空気感を生み出し、社員が自分ごと化できない「社長のMVV」に仕上がってしまうのです。

 

これを避けるために、私たちでいう理念浸透アドバイザーのような、外部の第三者を社長とプロジェクトメンバーの間に介在させるという方法もあります。

 

もう一つの注意点は、「社長自身の中で材料を揃えておくこと」です。

 

意外に多いのが、社長自身の中でMVVの材料になる考えがまとまっていないというケース。MVVを策定しようと決意したものの、「自分の会社のMVVをどうしていきたいか、自分でちゃんと説明できるか不安…」という社長の方は結構いらっしゃいます。

 

でも、私の経験から言うと、最初からちゃんと言語化できる社長は少数派です。そのためプロジェクトがスタートする前に、社長と理念浸透アドバイザーだけで個別にインタビューの時間を作り、壁打ちしながら言葉を整理するようにしています。

 

そうすると、ほとんどの方はきちんと考えを口に出すことができます。というのも、整った言葉まで落とし込まれていなくても、日々の経営で考えられていることは必ずご自身の中にあるからです。例えば「毎日の仕事で何を大切にしていますか?」とか「10年後、どんな会社になっていて欲しいですか?」といった問いに対して、何も答えることがないという経営者の方はいらっしゃらない。どんなに拙い表現であっても、皆さん必ず思うことがあります。

 

ただ、MVVのミッション(M)、ビジョン(V)、バリュー(V)の区別がついていなかったり、それぞれの内容が入れ替わってしまったりしているケースは散見されます。そのあたりの整理も、策定に着手する前に社長自身の中できちんとついていることが理想的です。

MVV策定で社長が肝に銘じたいたった一つのこと

MVV策定に関して、経営者の方にこれだけは覚えておいていただきたいことを最後にお伝えしておきます。

 

それは、「策定」と「浸透」がバーターの関係にあることです。

 

これまで多くの企業のMVV策定・浸透に取り組んできた私の経験上、策定が大変だった場合は浸透がスムーズで、策定がスムーズだった場合は浸透が大変になります。

 

次世代メンバーが主体となって策定に取り組んだ場合、意見を出し切って整理するまでに時間も手間もかかりますし、議論が二転三転することも少なくないので社長としてはヤキモキしながら見守ることになります。しかし、その分、できあがったMVVは、社員が「自分たちで作り上げた」と思えるものなので、組織への浸透フェーズは非常にスムーズにスタートできます。

 

対して、社長主導でトップダウンで策定を進めた場合、言ってみれば、社長の言葉をそのままきれいなフレーズに落とし込むだけなので、時間もかからず、議論が紛糾することもありません。ところが、完成したMVVをいざ組織内に広めようとすると、社員にとってはいわば「借り物のMVV」なので、かなりの難航が予想されます。

 

MVVは、会社の隅々まで浸透することで、次世代に安定した組織基盤を築くためのものです。そう考えると、策定の段階では、社長自身が介入したくなる気持ちをグッと堪えて、次世代メンバーに任せることが非常に重要だと理解していただけると思います。

 

「次世代に会社のことを任せたいけど、任せられない」と心の中で感じている経営者の方は多いと思います。MVV策定を、普段なかなかできない「任せる」ことの練習として捉えていただくのも一つの手ではないでしょうか。

企業理念ラボにちょっと相談してみる。 | 企業理念ラボ

PICKUP COLUMN

中小企業・ベンチャーのための企業理念/MVV超入門➎ M&A後のMVV策定を成功させる秘訣とは?
COLUMN

M&A後のMVV策定を成功させる秘訣とは?

中小企業・ベンチャーのための企業理念/MVV超入門➎
中小企業・ベンチャーのための企業理念/MVV超入門➎ M&A後のMVV策定を成功させる秘訣とは?
COLUMN

MVV策定のキモ「自社のDNA」はどう見つけるか?

中小企業・ベンチャーのための企業理念/MVV超入門❹
中小企業・ベンチャーのための企業理念/MVV超入門➎ M&A後のMVV策定を成功させる秘訣とは?
COLUMN

残念なMVV策定あるある3パターン

中小企業・ベンチャーのための企業理念/MVV超入門❸
  • 企業理念ラボにちょっと相談してみる。 | 企業理念ラボ
  • 【経営者限定 1時間×2回のオンライン診断】企業理念の刷新でスッキリ解決できる「50の経営課題」 | 企業理念診断