INTERVIEW

離職率が高いとされるウェディング業界で、多様なプロをまとめる「理念経営」の秘密

興味のあるトピックが一つでもあれば、この記事がお役に立てるかもしれません。

  • 不採用からの直談判でなんとか転職、そして42歳で社長就任
  • 創業者の「チャレンジ精神」が組織に浸透してはいるが…
  • 多種多様なプロをまとめ上げる強力な「何か」が欲しかった
  • 理念策定プロセスで知った「社長の言葉が届いていない」という現実
  • 結婚式が多様化する時代だから必要だったパーパス
  • 現場で実感する「小さな変化」と、理念策定の思わぬ副産物
  • 代表権を交代し新領域へ。ブレない理念があるからこその挑戦

福岡県と佐賀県エリアおよそ100キロ圏内にそれぞれ個性的な5店舗もの結婚式場を展開する株式会社アルカディア。平成元年にホテル業として開業した同社で、「邸宅ウェディング」をけん引してきたのが、アルバイトから入社して代表取締役社長まで昇りつめたいう異色な経歴を持つ大串淳さんです。

結婚式の現場を知り尽くしているからこそ、社員一人一人が仕事を通じて自己成長を実感してもらいたい。その実現に一役買った理念策定プロジェクトについて聞きました。(聞き手=「企業理念ラボ」代表・古谷繁明)

不採用からの直談判でなんとか転職、そして42歳で社長就任

不採用からの直談判でなんとか転職、そして42歳で社長就任

ーー御社は幅広く事業展開されていますが、創業からの沿革について教えてください。

 

弊社は、1989年(平成元年)に先代社長が佐賀市にロイヤルパークホテルを開業し、ホテル業から始まりました。その後、今から20年ほど前、ゲストハウススタイルの結婚式が全国で流行ってきたところで、2002年9月に福岡県久留米市にゲストハウススタイルのロイヤルパークアルカディアを開業。「邸宅ウェディング」という名称はアルカディアが商標登録を取得しています。

 

久留米から始まり、北九州の小倉、佐賀県佐賀市、福岡県太宰府とその土地の個性を活かした形で店舗を徐々に増やしてきました。例えば、太宰府には皆さんご存知の名所「太宰府天満宮」があり、そこで挙式した後に披露宴を行える式場として「太宰府迎賓館」という式場を作りました。

 

2015年には、満を持して福岡天神の中心に「QUANTIC」という8階建てのビル型式場をオープン。それまではガーデンやプールなどが敷地内にある一軒家貸切スタイルの郊外式店舗を手掛けていたのですが、これは都心にあるビル型の結婚式場という位置付けで、屋上にチャペルを擁し、光と水と緑を取り込んだ挙式を都市部で実現できるようにしました。現在、福岡と佐賀を中心に5施設の式場とドレスショップ、2つのレストランを運営しています。

 

ーー大串さんが社長に就任されるまでの経緯も教えてください。

 

私はアルカディアに入社する前、冠婚葬祭互助会系の会社で働いていました。大学卒業後、新卒で入社し、営業や婚礼事業の部署で社会人経験を積みました。アルカディアで働き始めたのは、31歳の時。

 

ちょうど従来の専門式場やホテル型からゲストハウス型の結婚式が流行り始めたタイミングでした。久留米でアルカディアがゲストハウス式の式場を開業すると耳にし、婚礼事業をするならぜひ新しい形の結婚式を手がけられる会社で挑戦したいと思い、応募しました。

 

ところが、採用面接で落ちて(笑)。でも諦めきれなくて、先代である当時の社長にアルバイト採用でもいいからと直談判し、なんとか入社を認められました。そこからはとにかく営業を頑張り、そこから主任、係長、課長と昇進し、すべての役職を経て42歳で社長に就任しました。2013年のことです。

 

創業者である先代社長が他界され、その後一時期は社長の奥様が社長を務められていました。やがて、現場経験が長くみんなを引っ張ってくれる人というとこで、私が社長を打診されお受けさせて頂くこととなりました。

創業者の「チャレンジ精神」が組織に浸透してはいるが…

ーー創業者の先代社長はどのような方でしたか?

 

本当におおらかな方。チャレンジ精神に溢れ、快く社員に任せてくださる方でした。実は先代は、ホテル事業を始める前は「八千代食品」という学校給食のパン事業を手がけられていたんです。ある時、近隣でホテル運営事業の持ち上がり、ホテル事業にも進出することを決めたそうです。

 

福岡県には大川市という家具で有名な街がありますが、当時は全国からこの街に家具の展示会に訪れる方が大勢いました。そこでホテルができて、そのホテルを地元の方が宴会や結婚式場として利用するようになって。その頃、新しいスタイルの結婚式が流行り始め、「これだ!」と先代は感じたようです。ちょうど私が入社した頃ですね。

 

ーーパン屋さんから異業種のホテル業に参入され、ここまで成長させたのはすごいですね。

 

まさに先代のチャレンジ精神の表れだと思います。ちなみに、アルカディアでは今でもパン事業の名残りがあり、焼きたてパンが式場で食べることのできるサービスを提供しています。

 

先代はよく「失敗してもいいからどんどんチャレンジしなさい、失敗しても元に戻せばいいじゃないか」とおっしゃってました。その言葉が文化として根付いているおかげで、今でも私たちは「やってみよう」と思える。アルカディアに深く浸透していますね。

多種多様なプロをまとめ上げる強力な「何か」が欲しかった

多種多様なプロをまとめ上げる強力な「何か」が欲しかった

ーーチャレンジ精神に溢れたカルチャーがしっかり根付いている中でも、今回こうして理念策定を「企業理念ラボ」にご相談いただいた理由はどこにあったのでしょうか?

 

私たちブライダルに携わる人間は、基本的に「人」に喜んでもらいたいというモチベーションで働いている者がほとんどです。目の前の新郎新婦に、生涯一度の「ハレの日」を喜んでもらおうと日々真剣に仕事をしています。

 

ただ、結婚式の準備には本当に大勢の、しかも多様な人材が関わります。新郎新婦と直接やりとりをするウェディングプランナーの他に、キッチンスタッフ、パティシエ、ドレスコーディネーター、バンケットサービススタッフ、カメラマン、司会者など多種多様なメンバーで構成されるチームで動いています。特にアルカディアは、メンバー一人ひとりの気持ちが強い会社なので、全員の気持ちをうまく束ねられる「何か」を必要としていました。

 

そこにコロナ禍という未曾有の事態が降りかかります。ブライダル業界も大きな打撃を受け、アルカディアも例外ではありませんでした。絶体絶命の苦しい状況の中でも、改めてアルカディアで働く意味や、成長の実感を従業員全員が腹落ちできるようにしたいと考えました。

 

また、ここ数年新卒採用を本格化させたことも、理念を軸として強力なインナーブランディングの必要性を痛感した理由の一つです。

理念策定プロセスで知った「社長の言葉が届いていない」という現実

ーー具体的にどのような取り組みを理念浸透アドバイザーとされたのですか?

 

実は私が社長に就任した2013年に、企業理念を制定したんです。それが、「ウェディングの魅力と価値を高め、『予想を超える結婚式』を提供します」というもの。私たちはただ単に結婚式を提供するのではなく、結婚式を通じて「感動と幸せの瞬間」を提供しています。したがって、結婚式当日だけでなく、結婚式前の打ち合わせや準備の段階でも「感動と幸せの瞬間」をお客様に味わっていただけるようにしよう。そういう心構えを示したものです。

 

ただ、これは対外的に発信することを想定して策定した理念だったので、今回は、メンバー全員が納得して一致団結できる理念をボトムアップで生み出した方がいいと感じていました。そのメンバーが主体的に理念を策定する「伴走役」として、「企業理念ラボ」に入っていただきました。

 

ーープロジェクトメンバーはどのように選定し、どのようなスケジュールで進めましたか?

 

理念策定プロジェクトのメンバーを、社員から7名選出し、半年間かけてプロジェクトを動かしました。当時(2023年)、弊社は社員が150~160名程、アルバイトを含めると300名ほどの規模。ウェディングプランナー、ドレスコーディネーター、マーケティングマネジメント、バンケットサービスなど各部門から一人ずつ選びました。年齢層は30代が中心で、20代後半や40代も入れました。

 

ーープロジェクトメンバーと直接話すことで、何か発見はありましたか?

 

最初は、上司に気を遣ったり部内の顔色を気にしているメンバーもいました。

 

でも、メンバーが主体的に社長の私に対してインタビューをしたり、創業者である先代に関わる歴史を調べたり、お客様やお取引先にヒアリングしたりする機会を設けることで、メンバーの顔つきが変わってきました。自分たちが会社や部門を代表しているという意識が芽生えたのか、普段の業務からは意識を切り離して、本質的な議論をするようになったのを感じました。

 

私が過去作った理念に対しても、「内容を覚えていない」「意味自体を理解していない」という率直な意見が出てきました。過去10年間、私としては事あるごとに社内に発信してきたつもりでしたが、力不足でしたね(笑)。社員の本音が聞けて、とてもよい勉強になりました。発見の連続でしたね。

 

最終的に、プロジェクトメンバーたちがバラバラな意見を実に上手にまとめてくれたその過程でも、彼らの成長を実感しました。理念策定のプロセスは、社長である私を含め、関わった者全員にとって「成長の機会」だったんですね。

 

結局、私が社長就任時に策定したミッション「ウェディングの魅力と価値を高め、『予想を超える結婚式』を提供します」は変更されることになりました。プロジェクトの途中では正直まだ変えることに抵抗がありました。でも成長したメンバーの意見を聞いて、ミッション変更にGOサインを出すことができたんです。

結婚式が多様化する時代だから必要だったパーパス

ーーミッション、パーパスにある「ただただ幸せに向かおう」について意図を教えてください。

 

 

結婚式を通じて、より本質的な幸せをお客様に実感していただくということです。コロナ禍を通じて、結婚式に対する考え方や想いは大きく変化しました。披露宴は行わず写真だけ撮影して残したいというカップル、挙式だけは行いたいというカップル、友人中心のパーティーを行いたい、親族だけでこじんまりとした食事会をしたいカップルなど、多様性が増しました。

 

どんなスタイルの挙式であろうと、すべてのお客様に寄り添い、プロとしてひたむきにアドバイスし最高の幸せを提供したい。ただただ真摯にお客様の幸せと向き合っていこうと考え出した言葉です。

 

ーースローガン「ハッ!ピーをつくろう」についても教えてください。

 

ミッションの案として最後まで残ったのが「ただただ幸せに向かおう」と「ハッ!ピーをつくろう」でした。どちらも捨てがたいということで、後者を、アルカディアを象徴する合言葉として残すことにしたんです。「ハッ!」は息を吞むような驚きを表現したもので、アルカディアでは常に新しい発見を提供していることを伝えようとしています。

 

 

ーー大切にする働き方・考え方を表した「アルカディアハッピーウェイズ」もわかりやすくて素敵ですね。

 

アルカディアで働くメンバーとして判断に迷ったり、立ち止まった時に立ち返ることのできる「アルカディアハッピーウェイズ」を5つ定めました。

 

 

最初に掲げたのは「自分からハッピー!」。私たちはついついお客様の満足度を優先しがちですが、まずは自分自身がハッピーであることが大事。自分自身がハッピーであれば、知らず知らずのうちに相手にもハッピーが伝播します。

 

2つ目の「まずやってみよう」は、先代から「やっていい、失敗しても元に戻せばいい」と常に言ってもらえたことを、アルカディアの文化・社風として示しました。

 

3つ目の「『好き』を活かそう」と、4つ目の「いまやろう」は、創業当初からアルカディアは常に新しいアイデアや演出などをどんどん取り入れる会社だったので、引き続きこのスピード感を継続したいという願いが込められています。

 

5つ目は「頼ろう、頼られよう」。私たちの仕事はチームワークで成り立っています。人を頼ることも、頼られることも両方大事。両方ができる人材になれているかを振り返るために加えました。

現場で実感する「小さな変化」と、理念策定の思わぬ副産物

ーー理念策定後、社内へはどう浸透させたのでしょうか。

 

まず全メンバーに向けて、理念を網羅した名刺サイズのカードを作成しました。財布や名刺入れ、ポケットなど身近なところに差し込んで、判断に悩んだ時にいつでも取り出して見てもらえるようにと考えました。

 

 

また、各店舗のバックヤードやウェディングサロンのスタッフルームに大きく掲示し、仕事のはじめにメンバーで見るようにしています。

 

 

ーー社内でポジティブな変化はありましたか?

 

わかりやすい言葉としてまとまったことで、それぞれ腑に落ちたようで、日々の行動に繋がっているのを実感します。例えば、キッチン担当スタッフは、実際にお客様から直接フィードバックを受ける機会がないのですが、他のメンバーが自発的に口コミサイトのお客様からの喜びの声を印刷してバックヤードに貼るなどして共有するようになりました。小さなことではありますが、こうした変化が明らかに現場にポジティブな雰囲気を生み出しています。

 

また、企業理念を策定する際に身につけた会議進行の仕方が、社内に定着したのは思わぬ副産物でした。プロジェクトメンバーが各店舗の事業会議に持ち返り、学んだことを実践した結果ですね。

代表権を交代し新領域へ。ブレない理念があるからこその挑戦

ーー最後に、理念を刷新した今、思い描かれている展望を教えてください。

 

私は今年4月に代表権を譲り、「エグゼクティブマネージャー」という肩書に変わりました。新しい分野にチャレンジするためです。

 

既存のウェディング事業は、代表権を譲った方にお任せしますが、社長が交代してもしっかりとした企業理念があれば安心して「次」に行くことができます。新領域では、アルカディアの理念に沿ってウェディング事業以外に挑戦していきます。

 

宴会事業やパーティー事業などの需要も増えてきているので、その領域も考えていますし、最終的には人のおもてなしに関するコンサルティングも展開したい。そんなふうに自由に領域を広げていけるのも、ブレない理念があるからこそだなと思います。地元、福岡・佐賀エリアに根差した事業をこれからも展開していきます。

「企業理念ラボ」には、

企業理念の言語化や浸透策の
事例が豊富にございます。
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株式会社アルカディア 

大串 淳さん

1970年生まれ。大学卒業後は、冠婚葬祭業の会社にて勤務し、31歳でアルカディアへ入社。2013年9月より、42歳で代表取締役社長に就任。

会社情報

社名
株式会社アルカディア
代表者
代表取締役 勝川木綿さん
本社所在地
福岡県久留米市宮の陣三丁目3番28号
従業員数
約130人(2024年時点)
創業
1989年3月
事業内容
結婚式場並びに貸衣装業・レストラン経営
会社サイト
https://www.arcadia-group.co.jp/
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