コロナ禍で組織崩壊の危機が続発、
「クレドポイント」導入で組織の立て直し
もし、一つでも当てはまることがあれば、この記事がお役に立てるかもしれません。
- コロナでリモートワークを導入して以来、組織がまとまらない。
- 「企業理念の実践」を給与に反映させたいが、方法がわからない。
- 役員クラスも若手も、離職率が下がらず頭を抱えている。
Webサイトのコンサルティングおよび制作を中心に業績を伸ばしている株式会社アーキタイプ。しかし、コロナ禍でリモートワークを導入したことをきっかけに30人前後の組織が崩壊を始め、2007年の創業以来最大の危機に…。
毎週のように役員クラスや若手から退職の連絡が届くようになり、「このままでは会社が潰れる…」という恐怖に見舞われる中、代表取締役の齋藤順一さんがとった方策は「クレドの制定とその定着徹底」でした。
(聞き手:企業理念ラボ代表:古谷繁明)
お手本にしたのは「リッツカールトンのクレド」
ーー最初に御社の事業内容や沿革などについて、簡単に教えていただけますか?
アーキタイプは、Webサイトのコンサルティングおよび制作を中心に、デジタルマーケティング全般のサービスを行う会社です。設立は2007年で、現在、メンバーは業務委託を含めて40人くらいです。大手企業の広告支援や、IoTアプリなどデジタル周りの仕事を行っています。
これから詳しくお話ししていくように度重なる危機を経て、理念やビジョン、それを実践するためのクレドを制定しました。その経緯や結果については後ほどご説明しますが、先にご紹介すると、弊社の企業理念は「あってよかったと思われる会社」。弊社のメンバーが「あってよかったね」と気持ちよく働ける会社、もちろん、消費者やクライアントにとっても「あってよかった」と思われる会社を目指しています。
ビジョンは、「クリエイティブで世界をよくする」。世の中がどんどん変わっていく中で、クリエイティブの力によって「どうやって世の中をよくしていけるか」をベースに考えながら事業展開しています。
そして、今日のメインテーマである「クレド」についても簡単に触れておきますと、「メンバーが幸せであるため」の行動指針10項目を定めています。どれもメンバーが「アーキタイプで働くならこういう行動をすれば間違いない」と指針にできるものです。いつでも参照できるカードにまとめ、仕事でつらい時や迷いがある時に開いてもらえるようにしています。
10項目のうち好きなクレドは8番の「ピンチはチャンス」です。ピンチにならないように調整するのではなく、ピンチの時にこそ思考をポジティブに変えられることが大事だ、とメンバーにも話をしています。10か条にした理由は、そうですね、『電通「鬼十則」』などを参考にしたり、選んでみたら10個になっていたという感じです(笑)。
実はこのクレドカードは、世界的なホテルチェーン「リッツカールトン」のものを参考にしています。リッツカールトンのクレドはよく知られていますが、社員がじゃばら形式のクレドカードなるものを持っていると聞いて、自分の会社にも取り入れたいと考えました。それで、実際に東京ミッドタウンのリッツカールトンに行って、従業員の方に「クレドカードをもらえませんか?」と頼んでみたんです(笑)。
――さすがの行動力です(笑)。
度重なる「組織崩壊の危機」で痛感したクレドの必要性
ーーでは、徐々にメインテーマについて伺っていきたいと思いますが、そもそも、理念、ビジョン、クレドなどを作ったきっかけは何でしたか?
2007年の会社設立時から、経営理念は絶対に必要だと思っていたので、当時の経営陣と一緒に考えて作りました。2008年に新しいメンバーが加わり、2009年頃までは少数精鋭で売上推移も順調でした。ところが、リーマンショックが起きて情勢が変わり始め、役員が退職するようなことも起きてしまいました。
ただ、2011年には社員も増え、2012年には事務所が移転しました。その頃、経営陣と他のメンバーとのギャップを感じるようになったのです。社員の中でも特に若手にきちんと僕ら経営陣の想いを理解してもらおうと思い、その時点でクレドを作りました。
しかし、その後、あるキーマンの社員が退職し、代わりを採用したりするうちに社員が初めて十数名になった時点で、組織をうまく束ねることが難しくなり、2016年にプチ組織崩壊を起こしたのです。
例えばプレイヤーとしては優秀なメンバーをマネージャーにしたところ「部下がついてこない」「マネジメントの方法がわからない」と言いだしたり。さらに役員が辞め、会社としてつらい時期がしばらく続きました。
2020年にはコロナ禍でフルリモートの体制へ移行し、それに伴って新組織を作りましたが上手くいかず、2回目の組織崩壊が起きます。その時は十数人が辞める一方で、採用を強化したことで新たに十数人が入社するという、入れ替わりの激しい状況が発生していました。週末になると、社員から「週明けに少しお話があります」というメールが相次ぎ、「また辞めるんだな…」と予想しては落ち込んで、メンタルをやられましたね。
漫画『キングダム』の「伍の組織」を、会社組織の中に作る!?
ーー社員の辞職は、経営者が一番恐れることですね。
ですね…。企業理念やクレドを作ってもなかなか浸透せず、それも組織崩壊の原因の一つだったと思います。僕が尊敬している、ある経営者にお話を伺った時に「社長たるもの、全方位的に経営を見ていけ」と言われたことがありました。「人事だけ」「営業だけ」を見るのではなく、360度すべてを見ながら社員や事業が今どういう状態にあるのかを確認しなきゃいけない、と。
「組織を作っただけ」「クレドを作っただけ」と点に過ぎなかったものを、全体を見ながら面に変えていかなければ、と気付いたことも、会社が盛り返した要因かなと思っています。
「クレド」浸透の過程で、取り組んだのが組織図を明確にすることでした。それで作ったのが「伍の組織」です。「伍の組織」は、漫画『キングダム』でも描かれていますが、戦場で歩兵五人を一組として「伍」と呼び、これを軍の組織の基本単位とします。リーダーが「伍長」となって、5人は常に行動を共にします。
マネージャーが見るメンバーは最大4人、それ以上増やすとマネジメントが行き届きにくいことが経験則としてありました。特に優秀な部下ほど、上司はつい放置して任せ切ってしまう。そうなると正しい評価ができなくなってしまいます。
今、弊社では僕が一番上にいて、その下に4人の部長がいます。部長の下の社員も4人以下です。部が増えた場合にも新部長は既存の部長の下に付けたり、と部長の数が4人以上には増えないように工夫をします。
ーー社員の反応はいかがでしたか?
最初は社員に結構アレルギー反応のようなものが出ました。伍長のマネジメント力を強くしたいと思い、部下の給与も決めさせることにしたのです。すると、「タスクが増える」とか「人の給料なんて決められない」などの声が上がりました。
ただ、あくまでもこれは上下の階級を表すものではないし、人が抜けた時には柔軟にポジションの入れ替えもできるというメリットが理解されるようになり、次第にネガティブな反応がなくなりました。
4年かけてクレドを組織の隅々まで浸透
その後、評価システムも大きく見直しました。
一般に評価制度は数字でバシッと出るリアルなものですが、クレドや企業理念はフワッとした印象を持たれがちですよね。でも、評価制度とクレドをキッチリ掛けあわせることで、「クレドに則って行動すれば給与に反映される」というところまで落とし込めたことは大きな成果でした。
クレドは10項目あり、1つ5点なので、全部で50点満点です。自己評価と「360°評価」の仕組みを使った他者評価を考慮して、最終的な評価を下すのは「伍の組織」の伍長です。
評価制度の運用を軌道に乗せるまではいろいろと試行錯誤もあって、評価の作業に時間を取られ過ぎないように注意し、簡易的な評価ができるように改善しました。現況ではうまく機能していると思います。
ーー評価制度の作成から運用までかなり時間はかかりましたか?
正直、たくさん時間をかけました。同じデザイナーでも、職人的なデザイナーになる人もいれば、マネジメント層としてアートディレクターになる人もいるので、柔軟に対応できるように両方のマトリクスを作ったり。新しい事業を始めると新しい職種も出てくるので、その度に求める経験値を言語化します。マトリクスを細かく決めておけば、給与に関しても「何をどれくらいやったら、給与はこれくらい上がる」ということが明確になります。
マトリクスだけで運用した時は、上手くいかず、「伍の組織」を作り、最終的に給与計算シートを使い始めてから、運用が上手くいくようになりました。個々の仕組みは経営合宿のような感じで、1、2日で詰めて作りました。トータルで4年くらいかかった計算です。
他者評価と自己評価のどちらを重視するか?
ーー施策を続けた結果、社内にどのような変化が見られましたか?
弊社では、部署ごとに給与の予算を決めますが、まず部長がそこから自分の給料を取り、残りを部下に配分する仕組みになっています。自分が頑張っていると思えば多く取ればいいですし、部下たちが頑張っていれば部下に多く配分すればいい。マネジメント経験が少ない上司にとって、部下の給料を決めるのは大変な作業ですが、評価シートはそのための参考資料となります。「360°評価」は他の人から定量的に入った情報なので、部下に対して「君はみんなからこう思われているよ」と言いやすいし、「伍長の独断で決めているわけではない」という裏付けにもなります。
ーークレドの浸透で意識したことはありますか?
作った当初は浸透を促すのは難しいと感じていました。ところが評価に
ダイレクトに影響するとなれば、クレドを意識せざるを得ません。
例えば、給料計算シートですが、先ほどのマトリクスに則って評価の数字を入力すると、給与が計算できる仕組みになっています。
クレドの点数が係数でかかって、給料にダイレクトに反映されるのです。評価設計を見ていただければわかるようにクレドポイントが20%上がれば、給与もそのまま20%くらい上がります。もちろん、「デザイナー職でCGも作れる」といったプラスアルファの能力があれば、ダイレクトに付加価値評価として給与が加算されます。伍長には部下のモチベーションを上げるために「マネージャー調整給」を与える権限も持たせています。
ーークレドポイントでは、他者評価と自己評価のどちらを重視していますか?
基本的には他者評価である、「360°評価」を重視していますが、最終的には伍長が決定します。1on1できちんと話し合いをしてもらっているので、評価がいきなり大きく変わるようなことは、ほぼありません。
給与が下がるケースでは、マトリクスを示しながら丁寧に説明します。いきなり減額されて驚くというような事態を防ぐためにも月に一度の1on1の機会に、目標を達成できているかどうかを確認してもらっています。給与が下がる場合も「半年間、様子を見るので、目標に追いついてください」などと伝えるなど工夫が必要です。逆に「こんなに給料は高いのに、グレードが見合っていない」というケースもあり、半年に1回の評価で少しずつ帳尻を合わせていますね。
クレドを給与に反映させるメリットとデメリット
クレドを給与に反映させる一番のメリットは、働く意義がはっきりすることでしょう。僕らみたいなベンチャーに限らず、創業者の想いがあるからこそ会社は成長し、価値を生みだしているので、企業理念を明文化して社員に伝えることでその会社で働く意義を感じてもらうことができます。それが給与に反映されていれば、なおさらです。
連続でクレドポイントが20点を下回った社員は、たいてい辞めてしまいます。それはその人がダメというわけではなく、会社の文化と合っていないことの表れなので、辞めても「仕方がないよね」という話になります。
デメリットは、今のところ感じていません。制度を作るまでは大変だったし、運用、浸透までに手間はかかりましたが。この評価制度がうまく機能しているので、最近では退職率も下がり、採用も上手くいっており、会社が持ち直してきていることを実感しています。
「企業理念ラボ」には、
企業理念の言語化や浸透策の
事例が豊富にございます。
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株式会社アーキタイプ
齋藤 順一さん
1977年福島県生まれ。Web制作会社数社を経て2007年ARCHETYPを設立。 デザインを中心にWebサイト制作やアプリケーションの開発に携わる。 コーポレートサイト、ECサイト、キャンペーンサイト、サービスサイト、メディアサイトなど様々なクライアント、サイトの制作実績があり、コンサルティングからUX設計、デザインまで幅広く受け持つ。2019年、ARCHETYP Staffingという人材サービスを開始。クリエーターの様々な働き方を見据え、現在は生成AIを活用したAI人材派遣を展開中。
会社情報
- 社名
- 株式会社アーキタイプ
- 代表者
- 代表取締役 齋藤 順一さん
- 本社所在地
- 東京都渋谷区恵比寿西1-16-7
- 従業員数
- 25人(2023年時点)
- 創業
- 2007年
- 事業内容
- 事業内容:Webビジネスに関するコンサルティング、戦略立案、Webサイトの企画、制作、運営、アプリケーション開発及びサーバー、システム構築、ブランディングにおけるコンサルティング、戦略立案、制作物の開発
- 会社サイト
- https://www.archetyp.jp/