EVENT REPORT

理念を見直したことで
組織崩壊を乗り越え売上15倍に

理念を見直したことで組織崩壊を乗り越え売上15倍に

17年前、大学生のときに起業して、就職・採用活動の支援サービスを展開しているリーディングマーク代表の飯田悠司さん。かつては自社の離職率が3割に達し、倒産の危機に立たされたことも。それでもわずか3年で離職率が1/3、売上は15倍になった経験から、「会社の発展のためにはミッションとバリューが最も大事」と言い切ります。どんなプロセスがあったのでしょうか。
数々の中小ベンチャーのMVV策定・浸透を手がけてきた「企業理念ラボ」代表で 理念浸透アドバイザーの古谷繁明が伺います。

(聞き手:企業理念ラボ代表 古谷繁明)

この記事は、2025年3月5日に開催した企業理念ラボ主催のサロンイベント「離職率を3年で1/3にし、売上を15倍にした理念策定のプロセス」のレポートです。一部公開ができない発言は割愛している旨、ご了承ください。

お時間のない方は下記から興味のあるトピックを選んで読んでいただくこともできます。

この記事の目次

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「仕事にやりがいを感じない」社会を変えたい

古谷

今回はリーディングマークの飯田さんをお迎えして、「離職率を3年で1/3にし、売上を15倍にした理念策定のプロセス」というテーマでお話を伺います。飯田さんは東京大学に在学中の2008年に創業されて、経営者として17年間のご経験があります。いろいろなご苦労を乗り越え、会社はここ数年で急成長しています。まずは自己紹介からお願いします。

飯田

私は大学3年次に当社を立ち上げました。きっかけは、就職活動を控えてOBOG訪問をする中で、自分の仕事を生き生きと語る人ばかりではないことが気になったからです。そこで、駅前で約200人にインタビューを行ったところ、「仕事にやりがいを感じる」と答えた社会人はたった21%だったのです。そんな現状を何とかしたい一心で、アルバイトで貯めたお金を元手に創業しました。

 

古谷

それから17年で紆余曲折を経て、今の事業内容を教えてください。

飯田

当社は、HRプラットフォーム「ミキワメ」により、会社も働く人も幸せになるプロダクトを提供しています。一つは、人の性格を明らかにできる「ミキワメ適性検査」を通じて、会社にどんな人がいて、どんな人が活躍して定着するのか、またその逆はどんな人なのかを分析し、採用のミスマッチを防ぐ適性検査の進化版です。

もう一つは従業員サーベイの「ミキワメウェルビーイングサーベイ」で、人の性格や心の状態を把握できます。性格や直近の心の状態の浮き沈みにより、辞める人が9割方は事前に分かるので、休職や離職を防ぐことができます。今、適性検査や従業員サーベイの領域では、毎月日本で一番売れるプロダクトになってきています。

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離職率30%オーバーから3年で1桁%台に

古谷

前回サロンに登壇いただいた倉橋社長が率いるペンシルさんも活用されていました。

飯田

ありがとうございます。ただ、当社もかつては離職率が30%オーバーでした。離職率が30%というのは、3年経つと誰もいなくなるという、とんでもない状況で…。テコ入れをしたことで今は1桁%台となり、IT業界としては非常に低い離職率で回っています。

古谷

離職率がそんなに高い時期があったのですか。

飯田

そして、このミキワメをリリースした2020年は、社員数が27人。新規事業を立ち上げては失敗を繰り返し、当時は学生を集めて企業とマッチングする就活イベントを主催する、採用支援の事業をしていました。しかし、コロナの影響でイベントができなくなり、倒産の危機に立たされました。何人リストラしても倒産するシミュレーションにしかならない状況で、どうせ倒産するなら最後までリストラしない、奇跡を起こすためにみんなで頑張ろうと話しました。そして、日本でほぼ初めてオンラインで就活イベントを開催すると、初回は1万5000人の学生から応募がありました。それで従来の事業の粗利を維持しながら、新規事業でミキワメを立ち上げ、成長できました。

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経営がうまくいかない理由は「バリュー」だった

古谷

倒産の危機を乗り越えられたのは、なぜでしょう。

飯田

2020年のタイミングでは組織崩壊から立ち直り、理念が浸透していたことが救いでした。今は正社員が160人ほどになり、売り上げもグッと伸びています。

私は会社の発展のためには、ミッションとバリューが最も大事だと思っています。当社のミッションは「私たちは、世界の人々の自己を実現したいという欲求に対して、社会の仕組みをDesignすることで、大きく有益なImpactを与えます」です。要は、人の自己実現のためにいい仕組みを作って、やりたいことをやっていこうというメッセージで、これはもともと浸透してたので変えていません。

古谷

ということは、バリューが問題だったのでしょうか。

飯田

その通りです。創業3年目ぐらいに、私と今の副社長の戸田で議論して作りました。戸田はもともとP&Gで研修や採用の東アジアの責任者をやっていたお客様で、誘って入ってもらったんですよ。学生で起業して全然うまくいってなくて、さほど売り上げもない会社に、P&Gのマネージャで結婚して子どもが生まれたばかりで、しかも神戸に家を買ったばかりの人が入ってくれるなんて、今考えるとめちゃくちゃありがたいですね。

話がそれますが、当時の僕はちょっと勘違いしていて、スティーブ・ジョブズはペプシコの社長のジョン・スカリーを誘うとき、「あなたはいつまでこの砂糖水を売っているんだ」と口説いて、プロ経営者に入ってもらったと本で読んだばかりで、これだと。僕は「戸田さん、いつまでオムツを売っているのか」と口説いて、めちゃくちゃ失礼でしたね(笑)。ただ、彼も起業しようと考えていたタイミングで、非常に気が合って、今でも副社長として一緒にやってもらっています。

古谷

面白いですね。どんなバリューだったのか教えてください。

飯田

例えば、「個人と事業の成長」というバリューでは結局、何をすればいいのか分からないですよね。あとは「革新への挑戦」なんて、大事だけど、実際には「とりあえず今の商材を売り切らないと。このバリューは置いといて」みたいな会話が横行していて、非常に良くない状態が5年ほど続いていました。

今、振り返ると、これをやると儲かるという言葉になっていなかったんですよね。それに、本来ミッションを実現するためには、事業を伸ばして社会に価値を提供するしかない。そして、事業を伸ばすための行動指針としてバリューがあるべきなのに、僕らのバリューにはそういう一本道が通っていなかったのが最大の問題だったと思います。

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浸透するバリューを作るためのプロセスとは

古谷

それでバリューを変えられたのですか。

飯田

はい、今の当社のバリューは「全部自分ごと」「理想から逆算」「爆速でトライ」「期待を超える」「みんなで勝つ」「正しさへのこだわり」で、これをやっていくと確かに儲かるという言葉になりました。そもそも事業戦略があって、そのためにはどういう組織であるべきなのかという組織戦略が一対一で対応していて、組織戦略を実現するために組織施策があります。ここに一本串を通す根幹にある考え方がバリューなのだと考えています。

 

古谷

新しいバリューはどうやって作られたのですか。

飯田

実は、作るときのプロセスが重要でした。バリューを見直そうという議論になり、自分ごととして浸透させたくて、当時いた50人ほどの全社員でバリューを作ったんです。手を挙げた社員をファシリテーターにして、付箋にバリューを書き出し、KJ法でカテゴリー分けして、一つの言葉にまとめていきました。

その際のポイントとして、ファシリテーターと経営陣の意識を事前にすり合わせていました。社員はみんな自分たちで作ったバリューだと感じている一方で、経営陣は事前のすり合わせにより入れたい要素をほぼ全部入れることができました。

古谷

プロセスと期間について、もう少し聞かせてください。

飯田

プロセスとしては、社員に「出てきた言葉を基にこういう言葉にまとめられそうです。皆さんはこの言葉の候補の中で、どれが一番大事だと思いますか」と選択制のアンケートを取り、「他に大事だと思う要素、反映ほしい要素があれば、自由記述をお願いします」と意見を求めて、最後は経営陣で集まってまとめました。期間は2か月です。社員が1日議論する日を設けたのと、経営陣が月1回やっている経営合宿を2回使いました。

バリューをまとめるプロセスに全員に参加してもらったこと、具体的で何をすればいいか分かりやすいこと、そしてこれをやれば儲かるという言葉になったことで浸透して、業績が伸びるようになったと思います。

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時代に合わない方針でも理念があればOK?

古谷

「全部自分ごと」というバリューは、どんな行動につながるのですか。

飯田

まさに僕らは「全部自分ごと」で取り組むチャレンジをしています。ミキワメの事業では、まずお客様の社員の皆さんに性格検査を受けていただいて、その会社にどういう人がいて、どういう人が活躍して活躍が難しいのかを分析し、採用基準を作ります。この採用基準を回してみたときにフィットしないことがあれば、どうブラッシュアップするかという議論もやるんですよ。

それから、ウェブビーイングサーベイを使っていただいている会社に関しては、状態を見ながら、ケアの方針はこうしましょうとか、この人をケアしてどうでしたかなど、定期的なディスカッションを特に契約初期の段階にはしっかりやっています。正直、システムとしてはコストをかけすぎなんです。

古谷

とても丁寧にされているのですね。

飯田

今、世の中では、プロダクト・レッド・グロースといって、プロダクトが勝手に売れるようにしたり、テックタッチといって、チャットボットで人件費をかけずに対応したりするのが流行っています。仕事のやり方も、役割を細分化して、プロ集団でバケツリレー方式でやっていくスタイルが主流です。ですから、僕らみたいに人をかけてフォローしたり、1人ひとりが成果を出すために何でもやるというやり方はズレているわけです。でも、「全部自分ごと」というバリューがあるから、自分たちではしっくりきています。

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理念を自分ごとにする多様な取り組み

古谷

理念が浸透しているとのことですが、具体的にはどのような状態になっていますか。

飯田

これをやれば事業戦略と組織戦略を実現できて儲かるという言葉になったので、みんなが実行するようになりました。日常会話で言いやすい言葉にしたことで、日々のやり取りの中でみんなが口にしていて、社内チャットツールではバリューのスタンプが流行っています。

また、毎月の全社集会では、バリューを体現した人がもらうバリュー賞があって、MVPと同じぐらい価値があるとされています。

古谷

素晴らしいですね。他にも浸透させるための工夫があれば、聞かせてください。

飯田

当社では、社員との評価面談を半期に1回行い、期初に目標を立ててもらいます。事業部のマストの目標から部署、個人と落として、ひとり3つから5つのアジェンダについて、自分の目標点数などを書いて宣言し、それを上司とすり合わせてフィックスするので、自己責任としてやりますよね。それがベースにあり、マストを本人が宣言し合意するプロセスの中で、特に意識して取り組むバリューを選択してもらいます。

 

古谷

目標設定にバリューを組み込むのですね。

飯田

あとは自分のCANやWILLを考えるときも、バリューに立ち返って考えてもらいます。当社の評価は結果評価なので、バリューをどれぐらいやったのかは直接点数に紐づかないけれど、設定するときに意識して作るように働きかけをしています。

古谷

そのスタイルにした意図を教えてください。

飯田

当社はミッションで自己実現を支援したいと掲げているので、自分がこうなりたいというWILLを踏まえて、単なるやらされ仕事ではなく、どうなりたいのかという思いを基に目標設定していただきたくて、今のスタイルにしています。

ただ、評価制度は難しいですね。目標設定や統計などを用いても、最後は人が評価するため、どうしても客観性に欠けるのではという声もあります。完全に客観的な人事評価というのはないと思うのですが、いかがでしょう。

古谷

そこは多くの方が悩まれているようです。評価者のスキルもありますし、目線をそろえるのが大変という声もあります。

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社員が自発的に頑張る環境を整える

古谷

最後に、今後の展望について教えてください。

飯田

せっかくなので、僕らが次のフェーズに向けて苦しんでいる点も少しシェアできればと思います。この5年弱で社員が27人から160人ぐらいに増えて、売り上げも15倍ぐらい伸びました。そうした中で、今年は久しぶりに離職率が2桁台になりそうです。というのも、当社はいい人を採用できているので、マーケットからの評価も高く、転職サイトに登録されたらスカウトが殺到して流出してしまうんです。未上場の会社としてはかなり頑張って給与を出していますが、大手に移るとやはり給与がアップするので、お手上げですよね…。

古谷

今はいい人材の奪い合いになっていますね。

飯田

ただ、中核人材はだいたい守れているので、これからバルクアップ期間として、ポテンシャルのある人を上げていくつもりです。当社では、まず意欲のある人を採用して、基本的にはなるべく褒めてポテンシャルを開花させることを念頭に置いています。バルクアップもその一つとなるでしょう。失敗を恐れず、反省を生かして次にいこう、自発的に頑張ろうと思える環境づくりを意識しています。社員同士で褒め合うツールを導入していて、社員からメッセージとポイントを送ることができます。そのような環境でみんなが意欲高く、朝7時から自主的に勉強会をしているのは、バリューの「全部自分ごと」「期待を超える」に当てはまります。これからも理念を大切にしながら、会社を成長させていきます。

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【質問コーナー】まわりに悪影響を及ぼす人を採用で見極める方法は?

古谷

ここからは、ご参加の皆さんからの質問にお答えいただきます。

 

質問①

経営者として一番楽しい瞬間を教えてください。

飯田

どんな仕組みを作れば、もっと成果が出るのかを考えるのが、一番面白いですね。戦略やプロダクトの方向性などを、特に今はAI時代になって世の中の仕組みがガラリと変わっているので、そういうところを踏まえて考えるのが楽しいです。ただ、どちらかというと経営者の役割を淡々とやっていて、常に楽しいと思っているわけではありません。

最近、経営者は自分の芸風に合った事業をやることがとても大事だと感じています。僕は営業や社員との面談、特にtoCが得意ではなくて…。一方、SaaSの設計は、お客さんに便益を提供できるプロダクトを一生懸命作って、あとはコツコツ営業して頑張れば成果が出るので、僕の芸風にすごく合っています。そこがかみ合ってきたから、ちょっとスケールできたのかなと思っています。

質問②

面接しても、まわりに悪影響を及ぼすタイプの人を採用してしまうことがあります。僕らに対しては普通だけど、陰ではそうではないらしく、見えないところは対処できないので困っています。どうすれば事前に見極められますか。

飯田

ミキワメというプロダクトを作ったのは、僕自身が社員を知りマネジメントするのがあまり得意ではなかったからです。実際にミキワメで採用のおすすめ度が高い人は、低い人と比べて活躍・定着する可能性が4倍ほど高いというデータが出ていて、当社ではデータを見て判断しています。例えば、感情抑制傾向という項目があり、辛いときに我慢するか愚痴を言うか、合理で行動するか感情に流されやすいか、人のことを大切に思っているのか、自分がいるのは自分のおかげだと思っているのかなど、いくつかの性格要素で特徴が分かるので、まずはデータで検出して、そういう人を採らないことをおすすめします。これは別にミキワメでなくて、他の適性検査でもいいと思います。

あとは、サーベイツールで心の状態を見るのも有効です。文句を言う人が多い環境下は、中間管理職が上には分かりましたと言っておきながら、下には経営批判をしているパターンが結構あるんですよ。すると人間関係はいい、周りの人が好き、でも会社のことは嫌いという結果が出ます。そういう心の動きによって、最優先でケアした方がいい人があがってくるので、僕らはそれをチェックしています。

質問③

どうにか活躍してほしい人がいるけれど、社内で合うところが探せなくて悩んでいます。

飯田

組織にはストライクゾーンがあって、その中で多様に散らばっているのがいい状態だと考えています。多様な人材を採用するといっても、どんな人でもいいわけではないし、全員が同質な組織を目指したいわけでもないですよね。当社では全員に性格検査を受けていただき、この職種やこの部署ならこういう人が活躍しやすい・しづらいと定義して、異動の参考にしています。

また、どの上司とならシナジーが発揮できそうかを見極めつつ、本人のWILLを踏まえた異動もします。あとは最近、3年在籍している社員は全員、自分の好きなポジションに応募できて、面接に受かれば異動できるようにしました。こちらで才能を見極めて異動させるのはもちろん、意欲があるのにモヤモヤとくすぶっている人を拾える仕組みになっています。

古谷

飯田さん、赤裸々にいろいろとお話いただき、大変盛り上がりました。ありがとうございました。

「企業理念ラボ」には、

企業理念の言語化や浸透策の
事例が豊富にございます。
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株式会社リーディングマーク 

飯田 悠司さん

1985年生まれ、横浜市出身。2005年東京大学経済学部に入学。仕事にやりがいを感じる日本人が少ないという状況に危機感を覚え、在学中の2008年1月に株式会社istを起業。2011年9月に社名を株式会社リーディングマークに改名。現在は、10分間の性格検査を元に自社で活躍する採用応募者を見極める適性検査クラウド「ミキワメ 適性検査」や、3分間のメンタル検査を元に社員の心の健康状態を可視化し休職・離職を防ぐ「ミキワメ ウェルビーイングサーベイ」を運営。現在、約5,000社を超えるお客様の組織づくり・採用を支援している。

会社情報

社名
株式会社リーディングマーク
代表者
代表取締役社長 飯田 悠司さん
本社所在地
東京都港区虎ノ門3丁目8番21号 虎ノ門33森ビル 10F
従業員数
160名(2025年4月時点)
設立
2008年1月
事業内容
Personality Techを活用したHR事業
会社サイト
https://www.leadingmark.jp/
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