EVENT REPORT

スタートアップ経営者必見
「組織崩壊」を乗り越えるMVV策定

スタートアップ経営者必見「組織崩壊」を乗り越えるMVV策定

ベンチャー企業において「組織崩壊」のリスクが最も高まるとされる「30人の壁」。それを乗り越えるための鍵がMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の策定と浸透にあるーー

創業6年目、今まさにMVV策定・浸透に奮闘しているスタートアップ経営者の一人、テクロ株式会社 代表取締役の天野 央登さんに、NewsPicksやSPEEDAで知られるUZABASEなど、数々の中小ベンチャーのMVV策定・浸透を手がけてきた「企業理念ラボ」代表で 理念浸透アドバイザーの古谷繁明が伺います。

成長期ベンチャー最大の危機「組織崩壊」を乗り越え飛躍するためのMVV策定・浸透のコツを、テクロ株式会社の実例を踏まえてとことんリアルに語ります。

(聞き手:企業理念ラボ代表 古谷繁明)

※この記事は、2022年12月15日にオンライン開催された企業理念ラボ主催のウェビナー「スタートアップ経営者必見『組織崩壊』を乗り越えるMVV策定」の内容を編集したものです。一部公開ができない発言など割愛している旨、ご了承ください。

お時間のない方は下記から興味のあるトピックを選んで読んでいただくこともできます。

この記事の目次

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従業員の「92%が業務委託」というユニークな会社

古谷

テクロ株式会社はBtoBマーケティング支援を行う企業として、コロナ禍の中で成長を遂げていますが、創業からこれまでの流れを簡単に教えてください。

天野

私は今27歳ですが、テクロは大学在学中21歳の時、2016年に創業して今年(2022年)の10月で6年になりました。創業当時の事業は実は現在の主事業である「BtoBマーケティングの支援」ではなく、2016年から2018年くらいまでにかけて、最初の2年間は「オウンドメディアの運営」を手がけていました。というのも当時、SEO重視のオウンドメディア事業を学生ベンチャーがやるのがはやった時期だったのです。その時期に「右向け右でメディアだ!」ということでメディアを作りました。

天野

何を作ったかというと、留学情報に関するメディアです。私自身シンガポール国立大学とインド工科大学に留学経験があるのですが、その際に情報収集に非常に苦労した原体験がありまして、留学先の情報を、特定のキャンパス内の情報や現地の家賃なども含めてインタビュー形式でまとめるメディアを立ち上げました。

 

海外の大学名で検索した時に、SEOで上位表示できるようにしておいて、メディアの裏側では「留学塾」を運営し、それでマネタイズしていくというビジネスモデルでした。つまり、入口がウェブメディア、出口がオンライン塾というわけです。2018年にその事業を売却し、2019年から現在のBtoBマーケティングの支援を手がけています。

 

現在の株式会社テクロの状況をお話ししますと、従業員数103人のうち、取締役5名、正社員3名、業務委託95名と、かなり「業務委託」が多い組織になっています。フルコミットに近い業務委託の方もいらっしゃるのですが、従業員の構成比が普通の会社とはかなり違うと思います。あとは、社長である私が今年東京から福岡に引っ越したにも関わらず、本社は東京の渋谷松濤にある点も、ちょっと変わっているかもしれません。実は社内では現在フルリモートワークを実践しています。これはコロナに入ってからですね。

 

私自身の中では、「正社員」と「業務委託」は特に区別はないと思っているものの、やはり世の中的には「業務委託は正社員と比べてコミットメントが低いんじゃないですか?」「一体どうやってマネジメントしてるんですか?」と言われることは多いですね。そう言われても、私は「そうですか?」という感じなのですが。今日はそのあたりのノウハウのお話をできたらな、と思っています。

 

弊社の業務委託の方の中には、海外に住んでいる人もいますし、日本国内でも北は北海道から南は沖縄までいろんなところにお住まいです。頻繁に引越しされる方もいます。特にパートナーの転勤について引越しされる方は多くて、「海外の場合は税制が変わるので、日本国外に引越しされる時は必ずご一報ください!」と伝えてはいるのですが、その対応で弊社のバックオフィスは大変だったりしますね(笑)。そのくらい、弊社は日本国内外、場所を問わず自由に働いている方が多いということです。

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ミッションとビジョンは「2100年の社会」を見据えて変更

古谷

従業員103名のうち95名が業務委託というのは、業務委託が多いと言われるベンチャー企業の中でもかなり特異ですね。そうしたユニークな組織の中で、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)をどのように策定し、活用してきたか今日は詳しく教えてください。

天野

今回のテーマとして、MVVでどのようにベンチャー企業の組織をまとめていったかがあるので、早速そのお話に入らせていただきたいと思います。弊社でもやはりMVVはちゃんと定めていて、こんな感じです。

天野

まず「ミッション:テクノロジーを使って企業間がスムーズにつながる共創社会を作る」について。どういうことかというと、BtoBビジネスの領域において、各企業のITリテラシーの問題でコミュニケーションが「ザラザラ」しているという問題があると感じていたので、これをテクロロジーの力でよりスムーズなものに変えていきたい、ということです。特にこれから人口減少社会に突入する日本において、テクノロジーの役割は大きいと考えています。

 

そして次の「ビジョン:グロースハックカンパニーで在り続ける」。これは今年の7月に変更を加えたのですが、弊社と関わる人や企業の皆様に成長と幸せを創出し続けられる存在でありたいよね、ということです。イメージでいうと、ステークホルダーの方々の後ろからマンガ「ドラゴンボール」に出てくる「かめはめ波」でエネルギーを送っているような(笑)。簡単にまとめれば、テクロという企業で働いている人、テクロと仕事をしている企業、そしてその企業で働いている人、「みんなの成長のドライブでありたい」ということです。みんなに「いい気」を送っていこう、と。

 

最後に、それを支えるための行動規範(バリュー)ですね。以下6つの行動規範を定めています。やはりバリューが一番具体的なので、組織の中で働いていらっしゃる方は、これを意識していると思います。

 

❶確かな根拠を示す

❷お互いの時間を大事にする

❸揺るぎない納得度を届ける

❹型にはまることなく創意工夫して取り組む

❺尊敬・尊重・信頼

❻ユーモラスであろう

 

当たり前かもしれないですが、どんな会社でありたいか、どんな社会を目指しているかを踏まえての行動規範なので、そのすべては繋がっているわけです。でも、たまにMVV同士が繋がっていないように思える会社ってありますよね。

 

弊社の事業が基本的にクライアントワークであることも影響して、改定前のMVVは、ミッションとビジョンも、かなり具体的でバリュー寄りなところがありました。でもミッションやバリューはもっと未来寄り、つまり2100年くらいを見据えるべきだなと新たに策定し直しました。未来の社会に対して自分たちの会社がどのように貢献していくかを明確にした方がいいな、と考え、以前よりも幅を持たせた内容にしました。

 

弊社が現在手がけているのが「BtoBマーケティング支援」であるというお話をしましたが、より具体的には、コンテンツマーケティングの戦略から実行まで一貫して行う伴走方webマーケティング支援になります。つまりBPO*の形でマルっと弊社で引き受けて、そこのサイト自体に集まるお客さんを増やしていきましょうというものです。

 

*BPO=ビジネス・プロセス・アウトソーシングの略称。企業運営上の業務やビジネスプロセスを専門企業に外部委託すること。

 

お客様は、かなり幅広くて、人材、コンサル、広告代理店など多岐にわたります。地域的には東京の企業が7割、残りは札幌、北陸、大阪、福岡あたりです。一時期、東京を意図的に抑え、他の地域のお客様を増やそうとしたこともあったのですが、結果的には、東京のお客様が現在も増加傾向にあります。6ヶ月以上のプロジェクト継続率は88%で、他地域のお仕事も順調に伸びている状況ですね。

 

実はBtoBマーケティング支援の領域はまだ空いているんです。つまり大手広告代理店だと「年間1億円出稿してくれないとお客さんじゃない」といった雰囲気があるので、それ以下の規模だと競合が一気に少なくなります。

予算規模が大きいものは、どうしてもtoCのビジネスが多くなってくるんですね。例えば、脱毛とか、化粧品とか。そういうジャンルはすごい額のマーケティング予算をつけるので。toBのマーケティングって、実は大手広告代理店があまり入ってきていない領域なんです。僕らみたいな「へっぽこベンチャー」でも、どうにかやっていける領域だったりします(笑)。競合もいるといえばいるのですが、toBに絞ってノウハウが溜まっている代理店は意外に少ない。なので、かなりニッチではあるけれども、社会貢献度は高いのではないかと考えています。

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「MVVを見よう見まねで作っていた時代」から今に至るまで

古谷

ちょっと話が脇に逸れましたが、「なぜ、MVVを策定するに至ったか」の経緯について教えていただけますか?

天野

弊社の中では、BtoBマーケティング支援事業がスタートした2019年からコロナが始まる2020年までと、そこからの1年ごとにフェーズが分かれています。実はテクロはコロナ中に成長してきた企業で、2021年に急に人が増えました。なおかつコロナの猛威が一番激しかった時期なので、全員リモートワークをしないといけないという状況でした。

 

そうした中で採用を進めたため、これまで「自分たちはどういう社会を目指しているんだっけ?」という部分をかなり曖昧なまま進めてきたのが、大きな歪みを生むようになってしまいました。

天野

まず2019年から2020年の最初のフェーズでは、「MVVは見よう見まねで作った」という感じでした。今から考えると、恐ろしくひどい出来だし、お恥ずかしいことに「ミッション」と「ビジョン」を取り違えてました(笑)。「これ、逆じゃね?」と。

 

そして、次の2020年から2021年の第2フェーズでは人数が増えたので、MVVと現状の間にズレが生じてきました。そこで外部のコンサルタントの方を入れて策定をしました。策定の仕方を教えてもらいながら、実作業は社内でやりましたね。だいたい作業量としては、コンサルの方:社内=2:8くらいだったでしょうか。

 

この時入っていただいた外部のコンサルタントは、ベンチャー企業の人事部長を歴任されている方で、個人の事業としてMVV策定も手がけられていました。この時期にちょうど人事評価制度も作り始めていたので、どういう形でMVVと人事評価制度を連関させていくかに重点を置きました。なので、MVVの内容というよりも、それをどう組織内で活用していくかの「実働」の部分をやろうとしていたわけです。

 

そうして、MVVをアップデートしたものの、また1年経つと現状とズレてしまって。結局またビジョンの改定と、バリューの追加をしました。この時は完全に社内のリソースでやりました。マイナーチェンジではあったのですが、それが今年(2022年)の夏です。

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MVVの策定・浸透でどうしても解決したかった2つの問題

天野

人数が増えてくると、「❶マネジメントの方針・方法が不明確」と「❷カスタマーサクセス(CS)のパフォーマンスが不安定」という2つの問題が生じてきましたお客様への納品物に関して、どうしても人が介在するサービスなので、バラツキが生じるのは仕方ない部分がありますが、それでも安定して「98点」くらいは出していかないといけないよね、と。今回のMVV改定の背景には、この2つの問題がありました。

 

「❶マネジメントの方針・方法が不明確」については、具体的には2つの課題がありました。1つ目の課題は、常に部下の(仕事の)進捗が気になって自分の業務に集中できないというもの。コロナでリモートワークになったことで、自分の席の隣に部下がいて「スプレッドシートの作成、進んだ?」というふうに気軽に聞けなくなりました。しかも業務委託が多いので、時間で管理しているわけでもない。僕も正直、リモートワークが始まった時点ではSlackで直接聞いてたんです、「進んでる?」と。でも、それって聞かれた側としてはウザいだけなんすよね。「やってるわ!」と(笑)。そういう歪みが社内で生まれていました。

 

2つ目の課題は、マネジメント「する側」に関するものですが、いつ何を基準に部下を注意していいかわからない、というもの。これ部活とか想像してもらえるとわかりやすいですが、例えば、「5分遅刻しても、10分遅刻しても同じように怒られるのか?」とか、「ユニフォームはいつ着てきたらいいのか?」みたいな話ですね。言い方もどのくらい厳しくすればいいかわからない、と。僕自身も他の会社で働いていたわけではないので、「人の上に立つ」という経験がなく、ある意味未熟でした。若いベンチャーなので組織の中にマネジメント経験が不足していた状況にありました。

 

こうした課題に対して、2つの施策を実施しました。1つ目の施策は「MVVに基づいたルール作成」。どういうことをしたら怒られます、どういうことをしたら加点されますという、すごくわかりやすいルールブックを作ったんです。もう1つの施策は「週報の設置」です。毎週水曜日にKPIに到達できているかとか、他の人がどういうふうに仕事を進めているかとか、自由に相談できる場を設けました。この週報の設置がわりとクオリティコントロールに貢献しているかな、と感じています。

 

ルールブックの中身を具体的に見ていくと、一つ一つのルールがバリューに紐づいているんですね。例えば「時間を守る」というルールは、「お互いの時間を大切にする」というバリューと結びついています。他にも「ミーティングの日時が確定したらカレンダーにちゃんと入力しましょう」「アジェンダ(議題)を作って、カレンダーにzoomのURLと一緒に入れておきましょう」「メールやチャットは24時間以内に返信しましょう。返信できない場合は『確認しました』とか『休暇中なので週明け返事します』とか、何らかの反応を返しましょう」などのルールがあります。

 

もし守ってない人がいた場合は、マネジメントする側が「ルールブックに書いてあります。それをちゃんと見てください」と伝えればいいので、お互いにやりやすくなったと思います。ちなみにこのルールブックはMVVを策定してから1年後くらいに作成しました。

 

ルールはかなり細かく設定しています。Googleカレンダーの登録も、やる人によって「質」に差が出てしまうんですね。zoomURLをペースとしてくれていない人がいたり。そういうことのないように、Googleカレンダーの登録をするのは、そのミーティングの「主」の人、zoomURLを貼るのはカレンダーのメモの部分と細かく決めています。これを実践することで、社内のカレンダーもミーティングのアジェンダも、同じ粒度で運用されるようになりました。こういうのって、本当に言うは易し行うは難しの典型かなと思いますが。

 

次は「週報」に関してですが、これはお客さんとの「握り」がちゃんとできているか、についてですね。例えば、弊社の場合だとページのビュー(閲覧数)がどのくらいか、リード獲得はどのくらいにするかなどをほとんどの案件でお客様と約束させていただいています。営業段階で決めたそれらの数字を、制作段階に入ってからもお客様と共有し、最終的にプロジェクトマネジャーがその数字を管理できているかまでを確認します。

 

そしてもし、数字がビハインド(未達)だった場合は、「もっと多めに施策を打たないといけないよね」などとコミュニケーションをとるようにします。あるいは「今月未達だった分、来月は新たにこういう施策を打っていきます」とお客さんに早めに報告と提案するなどですね。

 

こうして、「週報」で毎週進捗を追うことによって、他のタスクの粒度が合うようになってきました。つまり、私たちは数字が上がるようにいろいろと裏側でサイトをいじるわけですが、そうした小さな工夫が確実に数字に反映されるようになってきたということです。

 

例えば、担当者Aさんが未達だった場合、別の担当者Bさんがこの施策で数字を達成したから、Bさんの施策を試してみよう、とか。あるいは、「PV(ページビュー)は取れているけれども、コンバージョン(申し込みや成約)が取れていなくてつらいんです」といった担当の悩みが共有され、相談もしやすくなったことで、社内のマネジメントがスムーズに改善しました。

 

組織の構造として、マネジャーの上に、複数のマネジャーを統括する人がさらにいるのですが、僕も含めてそのポジションの人は、「週報」の段階ではそこまで細かくチェックはしていません。それでも、現場の状況を早めに把握できるようになったことで、指示を出すタイミングが明確になり、自身の業務に集中できるようになりました。部下のプロジェクトの進捗がまずいかどうかは、「緑」「黄」「赤」の色別で管理しているのですが、一眼見ればわかるので、「今は緑だから大丈夫だよね」とか「黄が増えてきたら気をつけないと」とか、意識がしやすくなりました。

実は「週報」もMVVと結びついています。僕らのバリューの中に「確かな根拠を示す」や「揺るぎない納得度を届ける」があるのですが、これらは数字のことを指していて、この考え方が「週報」に反映されていると言えます。

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「ルールを守る=MVVを守る」の仕組み構築がキモ

天野

「❷カスタマーサクセス(CS)のパフォーマンスが不安定」に関しても、2つの課題がありました。1つ目の課題は、担当者ごとに能力が異なり仕事の進め方が属人的になってしまっていたこと。つまり、クオリティコントロールができてない、ということですね。そして2つ目の課題は、担当者自身も何が正しい行動なのか不明確だと感じていたこと、です。これはまさにリモートワークの弊害なのですが、同じ空間に座っていると、同じポジションの人同士で「こういうふうにやるのか」と仕事のやり方を盗んだり、新しい社員の人もそうやって学んだりしていくと思います。つまり「背中を追う」わけです。でも、フルリモート体制ではこれができない。マニュアルを作っても、理解度は個人差があります。読んで100理解してくれる人と、70〜80くらいの人など差が出てしまいます。

 

❷に関しては、2つの施策を実施しました。担当者ごとに能力が異なり仕事の進め方が属人的になってしまっていたことに対しては、MVVに基づくマニュアルの作成を。担当者自身も何が正しい行動なのか不明確だと感じていたことに対しては、MVVに基づく人事評価制度の策定を、それぞれ行いました

 

実はマニュアル自体はMVV策定以前にもあったのですが、MVV策定後に一気に整備が進み、数が増えました。僕らがどんな作業をしているかはお客様から見るとブラックボックス化しやすかったのですが、精緻なマニュアルができたことでお客様に説明しやすくなったという、副産物的なメリットもありました。

 

人事評価制度は半年に1回つけ、それによって次の半期の給料が変わってくるという仕組みを導入しました。人事評価制度をどのように作っているかですが、「週報」でKPIとしていたページビューやリード獲得などの数字をひと月単位で出し、60点満点で評価するようにしています。またお客さんにもアンケートをとって、その結果も反映されるようにしました。これもビジョン「グロースハックカンパニーであり続ける」に結びついた施策ですね。

 

あとは、ルールブックが守られているかどうか、社内の他のメンバーの支援ができているか、なども盛り込んでいます。後者は、カスタマーサクセスやプロジェクトマネジャーなどポジションによって加点の仕方が変わります。ちなみにお客さんからの評価は、返答がない場合はめちゃくちゃリマインドして100%回収するようにしています

 

ルールを守れていれば、自動的にバリューも守れている、ということになります。なので、この人事評価制度がMVVの最後の到達点と考えています。「給料が減るのがやだ」という人がいたら、「だったら、ルールを守るようにしてください/MVVを守るようにしてください」と言えるようになりました。

古谷

日々守ってもらいたい細かなルールとバリューがしっかり結びついているからこそ、MVVが自然に浸透していくということですね。ちなみに、直近のMVV改定でバリューを追加されたとおっしゃいましたが、詳しく教えていただけますか?

天野

今年(2022年)のMVVの改定では、「ユーモラスであろう」を追加しました。これはCOO(最高執行責任者)の森川の希望です。これをなぜ追加したかというと、6つのバリューのうち上3つはどちらかというと定量的で左脳的なんですね。それに対して下の3つは定性的で右脳的。前者ばかりでまじめすぎるとつまらなくなってしまうよね、後者の「遊び的な部分」も欲しいよね、ということでバランスを考えました。僕らは右脳的な面白さも育てていきたいんです。それで右脳的な最たるものとして「ユーモラスであろう」を加えました。

天野

MVV策定は、弊社では今のところ完全にトップダウンで進めていますボトムアップで作られる会社さんもあると思うのですが、ちょっとフルリモートワーク体制だときついかなと感じていて、あえてトップダウンで決めました。どっちがいい悪いという問題ではなくて、メリットとデメリットがそれぞれの方法にありますが、今の弊社の状況にはトップダウンが合っているという判断です。

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「MVVに基づいた行動」を根付かせるための小さな工夫

古谷

次に浸透の話に移っていきたいと思います。MVVはやっぱり作ることよりも、いかに守ってもらうかが難しいわけですが、そのあたりはどのように実践されましたか?

天野

結論から言うと、先ほどの人事評価制度に反映させたのはよかったです。「ルールやマニュアル」とMVVはズレることなくちゃんと運用されていると実感しています。例えば、先日ちょうど評価が出たのですが、僕の実感値として「この人、ちょっとパフォーマンスが低いな」とか、「ちょっとMVVが守れてないな」と思っていた人は、実際にお給料が少なく算定されたんです。そこはちゃんと連関しているんだな、と。

 

あとは、マネジメントする側の意思決定においても、「それって僕らしいんだっけ?」という点が問われるようになりました。会社として目指している方向と、日々の意思決定が合っているんだっけという点を再確認しながら進められるようになったわけです。そのための共通言語としてMVVが機能していると感じます。

 

弊社の組織は、ピラミッドでいうと5層くらいの構造になっています。上から3層目くらいまでなら僕ら経営層も直接目が届きますが、それより下で何か問題が起きていた場合は、「これはルールから外れているんじゃないですか?」「MVVと合ってないんじゃないですか?」と報告が上がってくることが最近増えました。Slackでも、そういうメッセージが僕に届くようになっています。

 

また経営報告会など、大きな催しの際にはMVVを紹介するようにしました。「MVVを改訂しました」という点については特に何か反応はありませんでしたが、具体的なルールにまで落ちてくると「どうしてそうなってるんですか?」という質問が上がってきます。つまり、日常的なルールにまで落とし込まれていることで初めて、MVVへの意識が生まれるという順序ですね。MVVがMVVとしてあるだけではなかなか浸透はしません

 

「MVVを策定・浸透する上でのハードル」に関してですが、弊社においては、「何を基準にMVVを策定するのが正しいか」と「役員の価値観の言語化とすり合わせ」が難しかったですね。

 

マネジメントする側がMVVを守れてないとそれは絶対に浸透しないので、マネジメントする側は、100%を超えて守りにいかないといけないですね。これは大事。僕やCOOがこれを守れていないと、「守ってください」と言えないので、やはり「人として大事」と痛感しています。憲法作ったけど守れてない独裁国家の大統領みたいになっちゃいますから(笑)。会社でも、国家でも、組織ってそういうものだな、と。

 

役員同士の価値観のすり合わせに関しては、とにかくよく話すこと。MVVを策定する時は、普段より話す回数を増やしました。土日とか6時間くらいzoomを繋ぎっぱなしにして、お菓子とか食べながら「僕、こう思うんやけど」というやりとりを濃く続けました。あとは他社のMVVを集めてあれこれ見ながら、どういう粒度で作っているのかを研究していました。特に、「言葉の選び方の基準」ですね。でも、会社によってかなり違っていて、結局どれが正しいというのは見つけられませんでした。

 

ポイントは、「MVVを浸透させること」ではなくて、「MVVを基準とした行動を浸透させること」です。つまり、「MVVが守られること」は結果でしかないわけです。結局、MVVは言葉でしかないので、あの短い2〜3行で会社のことが全部伝わるかというと、絶対にそんなことはない。何が一番大事かというと「行動」です。

 

成功させるためにやっていることをいくつかご紹介していくと、例えば社内のミーティングでは、「30分以上のミーティングでは雑談をマスト」にしています。1時間のミーティングなら最初の10分はブレイクアウトルームで雑談をしてもらいます。どうしても発言量が増えてしまう僕のような立場の人はあえてミュートにして聞くようにしていますね。

 

あとは「毎月1on1のミーティングを設定」もルール化して、そこで振り返りをしたり、業務や会社について個別に相談できるようにしています。他にはとても細かいルールですが、オンラインミーティングでは必ずカメラはオンにして顔が見える状態にしようね、とか、人数が多い場合はみんなが発言しやすいように少人数のブレイクアウトルームに分けていこうね、とか、そういう決まりも設けています。

 

「雑談」をマストにした理由としては、1on1も最初のうちはどうしても業務の話ばかりになってしまい、個々人がどういう状況にあるのかが見えづらいという問題がありました。そこでやっぱりそれぞれの状況をちゃんと随時把握するには「雑談がいいね」という話になり導入しました。「雑談」って、仕事の話をしても、プライベートの話をしても、どっちでもいいんですね。そこは話す側の自由な選択なので。

 

お互いに強制しない形で開示してもらうことで、マネジメント側としてはその人が今どういう状況にあるかが見えやすくなりました。「あの猫ちゃん今、元気ですか?」とか、そういうさりげないやりとりから見えてくる情報が結構大事だったりしますよね。非効率的に見える部分が実は一番大事ということも近年言われますが、リモートワークが浸透してそのことを痛感してはいます。

「企業理念ラボ」には、

企業理念の言語化や浸透策の
事例が豊富にございます。
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お気軽にお問い合わせください。

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テクロ株式会社 

天野 央登さん

テクロ株式会社CEO。慶應義塾大学経済学部卒、東京工業大学特別履修課程修了、シンガポール国立大学・インド工科大学留学。⼤学2年⽣時に起業。留学メディア「交換留学ドットコム」を1年半ほど運⽤し事業売却。その後はコンテンツマーケティングの知⾒を活かして、Webマーケティングの顧問事業を開始。BtoBマーケティングを中心にSEO・MAツールに詳しい。

会社情報

社名
テクロ株式会社
代表者
代表取締役 天野 央登
本社所在地
東京都渋谷区松濤1-28-2ワークコート渋谷松濤
設立
2016年 10月 12日
事業内容
Webマーケティング・Webメディア運用
会社サイト
https://techro.co.jp/
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