COLUMN

中小企業・ベンチャーのための企業理念/MVV超入門❸

残念なMVV策定
あるある3パターン

残念なMVV策定あるある3パターン

事業拡大、事業承継、M&Aなどにともなって、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を策定もしくは改定したいという企業の皆様に、15年にわたり中小企業・ベンチャー企業の理念策定・浸透に携わってきた「企業理念ラボ」代表の古谷繁明が、そのノウハウをお伝えする本連載。

 

第3回は、理念浸透アドバイザーの古谷がこれまで見てきた「残念なMVV策定あるある」をご紹介します。会社の背骨となって将来の経営を支えてくれる「優れたMVV」を生み出すヒントとは?

この記事では、以下の3つのことがわかります

  • カッコいいMVVの落とし穴
  • 社長が自分で策定してもOK?
  • 独自性はどうやって出す?

解説するのはこの人

古谷 繁明

「企業理念ラボ」代表 理念浸透アドバイザー 古谷 繁明

1979年、熊本生まれ。東京大学工学部卒業後、伊藤忠商事、パラドックスを経て現職。15年にわたり、経営の移行期を迎えた数々の中小企業・ベンチャーの理念策定・浸透にたずさわる。元プロキックボクサー(J-network バンタム級1位)。

「カッコよすぎるMVV」は要注意

「残念なMVV策定」として一番よくあるのが、「字面はカッコいいけど、全然浸透しないMVV」です。フレーズもキレがあって印象的で素敵だし、それを反映させたリニューアルサイトも、会社のコンセプトブックもデザイン性が高くてカッコいい。社外のウケはいいけれど、社内では「ふーん」と冷めた反応でいっこうに定着しない。そんなMVVは実は世の中に結構あります。

 

これは、MVV策定のゴールが、「カッコいい何か」を作ることに終始しまっていることから起こります。社長や社員の間で考えを言葉にしていくことに十分な時間を割かないまま、最初からプロのコピーライターやデザイナーに任せてしまった場合に生じてしまう「あるある」です。

 

「正しいMVV策定」でも、プロのコピーライターやデザイナーの方に関わっていただきます。ただし、それは策定の最終段階になってから。数か月をかけて社内のプロジェクトチームがしっかり議論を重ねた末に、チームメンバーから直接クリエイターに発注する形を取ります。その際、クリエイターからの鋭い質問を受けて、これまで議論してきたことに立ち返ったり、考えを深めたりすることができます。そうすることで、自分たちの思いが確実に言葉に反映され、真の意味で「社員の持ち物」としてのMVVができあがります。

 

「うちにも、GAFAみたいにカッコいいMVVが欲しい」。そのお気持ちは非常によくわかりますが、MVV策定で何よりも大切なのは、カッコいいことよりも、「社員に浸透すること」。その原点からブレないことが何より大切です。

社長自らしたためた情熱的なMVVが伝わらない…

二つ目の「あるある」は、「長すぎてわかりづらいMVV」です。

 

社長自ら並々ならぬ情熱をもってしたためたMVV。でも、ものすごく長くて伝わらない…。実は、これは非常によくある典型的な例です。いくらわかりづらくても、直接「わかりづらいですよ」と指摘されることはまずないので、社長ご自身は「こんなにも一生懸命言葉にしているのに、なぜ社員に伝わらないのだろう…」と頭を抱えていることが少なくありません。

 

しかし、これは、一つ目の「めちゃくちゃカッコいいけど、全然浸透しないMVV」に比べれば、それほど問題がありません。なぜなら、少なくとも社長の中ではちゃんと考えが言葉になっているからです。課題は「表現力(伝え方)」だけなのです。

 

第2回に書いたように、社長の考えを、社内のMVV策定プロジェクトチームに丁寧に共有するプロセスを踏めば、ちゃんと「浸透するMVV」に着地していきます。

 

他にも、「わかりづらいMVV」になってしまう原因として、ミッション・ビジョン・バリューの内容がきちんと整理されていないことが挙げられます。ビジョンで書くべきことがバリューになっていたり、それぞれが重複して同じことの繰り返しなっていたりするケースです。そうなると、社員は混乱しますし、社外から見ても理解しづらいので、基本の「き」ですが注意しましょう。

 

 

もう一つの原因として挙げられるのは、「抽象的すぎる」こと。つまり、他の会社でも当てはまるよね、というMVVになってしまっていて、その会社らしい独自性に欠けている場合です。

 

企業が社会の中で大切するべきことは、時代と場所が変化しても、実は変わらないものが多いのです。「挑戦」や「成長」といった言葉は、多くの企業のMVVに含まれています。ポイントは、そこにどれだけ独自性を加えられるかそのためには、社内で議論を重ねて「独自性」の材料をできるだけたくさん出し切ること、そしてその材料を的確にフレーズへ落とし込むことが大事です。

 

議論の段階では「独自性」の材料がきちんと出てきているのに、肝心のコピーライティングの段階で抜け落ちてしまい、結果として解像度が荒く抽象度の高いMVVになってしまっているというケースが散見されます。

社長トップダウン型の「俺のMVV」はNG

三つ目の「あるある」は、「社長主導で作られた俺のMVV」です。

 

これについては第2回「MVV策定が成功する社長の関わり方」で詳しく触れましたが、MVV策定では、「主体」はあくまで社内の次世代メンバーに置き、社長は「サブの立ち位置」にいることが大切です。

 

MVVは会社の背骨となって未来の経営を支えていくためのもの。次世代メンバーに「任せる」ことを社長ご自身が覚える機会でもあります。上手に任せながら関わるポイントは、第2回にまとめたので割愛しますが、社長がプロジェクトメンバーを信頼できていない状態で策定がスタートすると、だんだん社員のパフォーマンスに満足できなくなり、途中から「自分で作る!」と言い出してしまうことがあります。

 

こうなると、会社の将来を支える「次世代のためのMVV」であるはずが、社長による社長のための「俺のMVV」になってしまいます。策定の段階では、社長は大満足だったりするのですが、浸透の段階になると確実に苦戦するので、やはり社員主体でのMVV策定をおすすめします。

 

MVV策定を機に、社長主導のトップダウン型から社員主体に移行できた組織は、経営面でも強くなります。MVV策定は、社長の代替わりの前後で行われることが多いので、その意味でも「自分がいなくなっても回る組織」を作るという意識をもって取り組むことを提案しています。

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