INTERVIEW

地方の「ローカルブランド」から「全国ブランド」へ
その成功を支えた組織作り

もし、一つでも当てはまることがあればこの記事がお役に立てるかもしれません。

  • 「ローカルブランド」から「全国ブランド」に脱皮したい。
  • 老舗企業の中で「新規事業」を立ち上げ中で苦労している。
  • 社内で次世代リーダーを育成したいが、方法がわからない。
  • 「任せられる番頭役」と「それ以外」が分断されてしまっている。

創業した地域では「ローカルブランド」としての地位を確立しているものの、「全国展開」となるといろいろなハードルに直面して前に進めない…。

 

その困難を乗り越え、九州エリアで展開していたホテルブランド「ホテルフォルツァ」を全国11か所に広げるにいたった株式会社エフ・ジェイ ホテルズ(以下、FJホテルズ)。同社の代表としてブランドの立ち上げ人を務めた清原邦彦さんに「ローカルブランド」から「全国ブランド」に飛躍するタイミングで重視した「組織づくり」の秘訣を聞きました。(聞き手=「企業理念ラボ」代表・古谷繁明[写真左])

 

◆運営委託という「受け身のビジネス」から「攻めのビジネス」へ

ーー「ローカルブランド」から「全国ブランド」へ飛躍できた秘訣を聞いていく前に御社の沿革を簡単に教えてください。

 

FJホテルズは2021年に設立しましたが、その前身となる法人がホテル事業を開始して今年(2023年)で50年になります。親会社は福岡を中心に都市開発を行っている「福岡地所」という会社で、自分たちが開発したホテルアセット(資産)を、自分たちで運営できるようにしようという目的のもと生まれた会社が「FJホテルズ」です。

 

最初はビジネスホテルからスタートしたのですが、「海の中道」にある都市型リゾートホテルや、アメリカのハイアット ホテルズ アンド リゾーツとMC(運営委託)契約を結んだ「グランドハイアット福岡」なども手がけてきました。MC契約とは、ホテルの運営部分はハイアットに任せながら、従業員の雇用や企業としての経営を司る部分を「FJホテルズ」が担うというスタイルを指します。

 

 

私たちの親会社である「福岡地所」を事実上、創業したのが榎本一彦という人物で、彼から見ると私は甥(おい)にあたります。そして今の親会社の社長とは従兄弟の間柄です。

 

私自身はイギリス留学を経て1998年に「福岡地所」に入社、当時から一貫してホテル事業を担当してきました。自分がファミリービジネスを支える立場になるであろうことは、若い頃からある程度自覚していたと思います。

 

今日のお話のメインとなる「ホテルフォルツァ」は、15年ほど前に独自の宿泊特化型ホテルブランドとして立ち上げました。

 

それまでは「福岡地所」が作ったホテルを運営するという、どちらかというと「受け身のビジネス」をやっていました。その過程で、ハイアットとの素敵なご縁もできたわけですが、「フォルツァ」は「攻めのビジネス」で過去に手がけてきた仕事とは毛色が違っていました。つまりゼロから自分たちで企画し、自分たちで運営もしていくスタイルに初めて挑戦することになったわけです。

 

「フォルツァ(FORZA)」はもともと「活力・元気」という意味で、寝るだけではなく、活力をチャージして来た時よりも元気になって帰っていただけるようなビジネスホテルを作りたいという思いを込めて命名しました。これまでMC(運営委託)契約で手がけてきたハイアットのデザイン性やホスピタリティを、よりリーズナブルな価格で30代、40代のビジネスパーソンに提供していきたい、と考えました。

 

当時、JALさんが「クラスJ」というシートを売り出していました。エコノミークラスにいくらか追加料金を払うとゆとりあるシートで快適な移動ができますよ、という商品ですが、発想としてはアレに似ています。「寝るだけ」の通常のビジネスホテルに+αの料金をいただくことで、快適な空間で心身を休め、おいしい朝食を召し上がり元気な状態でチェックアウトしていただく。それが「フォルツァ」を通して提供したい価値です。

 

 

2008年9月に1号店を大分に開業、その後2号店を福岡、3号店を長崎、4号店をさらに福岡にと順調に展開してきました。おかげさまで「フォルツァ」は九州エリアではとてもいい成績を残すことができ、我々自身もとても手応えを感じて「もっと攻めていきたい」と考えていました。また親会社からも「全国でやってほしい」とリクエストがありました。

 

2015年頃から「九州エリアから外に出ていくぞ」と決め、2019年から全国展開を開始、2023年の段階で11店舗まで拡大しました。

◆「全国ブランド」に成長するのに不可欠なプロセスとは

ーー「フォルツァ」ブランド誕生後、7年目の時点で九州の「ローカルブランド」から「全国ブランド」を目指す動きにシフトしていったのですね。

 

そうです。そのタイミングで、私の中で一つの懸念が生まれていました。「フォルツァ」は立ち上げから私自身がずっと見てきた事業なので、九州の4店舗くらいであれば、自分の目も十分に届くし、気心の知れた支配人たちと阿吽の呼吸で回していけたかもしれません。でも、この先、札幌、金沢、名古屋と店舗を増やしていくと、もう目は届かなくなりますし、支配人も増えて「言わなくてわかるよね」という関係性では当然なくなってきます。

 

立ち上げ当初は、「フォルツァ」のメンバーの間で「こういうのがいいよね」と「こういうのがフォルツァアらしいよね」という暗黙知が共有されていました。それが拡大フェーズに入り「全国ブランド」を目指すようになった今、明確に言語化しなければ組織がバラバラになってしまう。店舗間で目指す方向性が定まらず一つのブランドとして成立しなくなってしまう。その懸念が自分の中で明確になっていきました。

 

ーーその時点で、改めて「フォルツァ」のブランド価値を言葉にし、組織の隅々にまで浸透させるプロジェクトに着手されたわけですね。

 

はい。「全国展開」を目前にして必要に迫られ理念策定・浸透のプロジェクトをスタートさせました。九州の「ローカルブランド」を脱して「全国ブランド」に成長していくには不可欠なプロセスだと感じたんです。あらためて、「フォルツァらしさって何だろう?」と社員やスタッフみんなで突き詰めていかなくては、と。

 

ーー「予防策」として取り組まれたのですね。一般的に、事業が拡大し現場でいろんな問題が実際に生じてから「理念の策定・浸透」に着手するケースが多いですが、先回りして予防的に進められた、と。

 

そうです。全国展開を見据えた予防策として、でした。今後、全国で店舗が増えると、立ち上げを共にしたコアメンバーは全国に散っていってしまいます。その前に、まだ余裕があるうちにコアメンバーの中に溜まっている暗黙知を言語化しておいた方がいいと感じました。

◆創業者の口から初めて聞いた「自分たちの原点」

ーー具体的にはどんな取り組みをされたのですか?

 

全体で12か月ほどの取り組みで、最初の3か月は徹底したインタビューとヒアリングを実施しました。つまり創業者、従業員、お客様、取引先、メディアなどあらゆるステークホルダーに「フォルツァらしさとは何か?」を聞き、言語化していったのです。

 

これはやってみて痛感したことですが、「自社の価値」を言語化していく時に「客観性」はとても大事なんですね。お客様はもちろんですが、例えば、旅行情報を発信しているメディアや、OTAと呼ばれる旅行情報のプラットフォームの方は、業界全体で競合とも比較しながら「フォルツァらしさ」を教えてくださって、本当に貴重な示唆をいただきました。

 

結局、アンケート用紙を渡して答えていただいた方や、直接インタビューに応じていただいた方などのべ20人以上の方々に「フォルツァらしさ」を言葉にして教えていただいたと思います。

 

このプロセスで私にとって特に大きな発見だったのは、親会社の実質的な創業者の言葉でした。近しい存在なので普段、深い話をする機会があまりなかったのですが、あらためてインタビューしてみると、初めて聞く話がたくさんありました。

 

彼のビジネスの根底には創業からこれまで一貫して「街をもっと、もっとおもしろくしたい」「街をエキサイティングな場所にしたい」という強い思いがあることが見えてきたんです。街をおもしろい場所にすれば、それによって街に活気が生まれ、潤う。すると、結果的に自分たちの事業もうまく回っていく。そういう街全体の「循環」を意識する姿勢が明確にあることがとても印象に残りました。

 

例えば、福岡の「キャナルシティ博多」になぜ「グランドハイアット福岡」を作ったか、その理由も創業者に聞いてみました。すると、「当時はグレーのスーツを着た男性ばかりが街を歩いていてワクワクしなかった。これを華やかに着飾った女性をはじめ、多種多様な人たちを街の主役になるよう変えていけば、とても楽しくなるに違いないと思った」という答えが返ってきました。要は、「着飾って出かけられる場所」を作ろうと考えたそうで、それが「グランドハイアット福岡」や、劇団四季の劇場という形で具現化されたとのことでした。

 

つまり、最初に「街をおもしろくしたい」というコンセプトがあり、そこから五つ星ホテルや劇場といったコンテンツが決まっていったわけです。

 

そういうことを、普段あまり話す機会のない創業者が熱く語ってくれて。現在は80歳を迎えていますから、インタビューをした当時は70代半ばだったと思います。

 

 

我々「フォルツァ」のメンバーが普段から、「寝るだけの場所」を作るのは嫌だよね、デザインや快適さを大切にしたいよね、という志向がある理由も、その創業者の言葉に触れて腹落ちしたといいますか。単に儲けるだけではなく、「何かおもしろいことをしたい」と考えるDNAはそこから始まっていたんだと、納得できました。

 

ーー創業者の方は、やはりどこの企業でも偉大な存在で日常的に接してはいても、深い話はなかなかできなかったりしますよね。

 

そうなんです。それに、創業者の方も、やはり機会がなければ自分から話されることもないと思いますし。こうして理念策定・浸透プロジェクトの中で直接聞くことができて本当によかったですね。

◆次世代リーダーの卵、「縁の下の力持ち」を見つける

膨大なインタビューを通じて「フォルツァらしさ」を抽出し、その後完成したのがスローガンやバリューでした。

 

 

「ね、いいでしょ!」というスローガンは、自分たちが「いい」と信じている価値観や、そこから生まれてくる感動を素直に仲間やお客様に伝えていける言葉だと思っています。理念策定の過程でこの言葉が出てきた時は、とても腹落ちしました。

 

ーー言葉だけがプロのコピーライターの方から出てきても「腹落ち感」はないと思いますが、その前段にたっぷり時間をかけて膨大な言葉を集めた結果、抽出されたものだったことが大事なんですね。

 

そう思いますね。こうして無事にスローガンと4つのバリューが生まれ、その後それらを組織の中に浸透させていくさまざまな取り組みを進めました。手帳などのツールも作り、スタッフ一人一人が日常的に手に取り見てもらえるよう工夫もしましたが、何より大きな効果を発揮したのは「オレンジソウルアワード」だったと思います。

 

毎週各店舗内で行動指針「フォルツァバリュー」を反映した行動をスタッフから共有してもらい、月に1回各支配人が各店舗の代表エピソードを選び、その中から会社全体の月間MVPを決定します。これを続けると一年で12のエピソードが生まれるので、最終的に「オレンジソウルアワード」でみんなで投票し1〜3位の最優秀エピソードを決定、表彰するというものです。そういう仕組みの構築や実際の運営も含めて、すべて社内のプロジェクトメンバーで進めていきました。この取り組みが、「理念の策定・浸透」に大きな効果を発揮し、2017年からスタートした全国展開の成功に大きく寄与したと実感しています。

 

2019年6月に「オレンジソウルアワード」を開催した後は、コロナ禍でそうした取り組みを一時中断せざるをえなくなりましたが、最優秀エピソードで表彰された1〜3位の人材は、大活躍してくれています。今ではマネージャーに昇進し、主要なポジションに就いています。

 

また社内のスタッフに対して「周囲の人にホテルフォルツァを勧めたいと思いますか?」とNPS(ネットプロモータースコア)」をとってみたところ、コロナ前に「オレンジソウルアワード」を経験した人材ほど高いスコアを出しています。コロナが落ち着いた今、またこういう施策を復活させていきたいなと思っています。

 

ーーこの「理念策定・浸透」のプロジェクトには、社内のどんなメンバーが参画したのですか?

 

プロジェクトチームは、私、部長クラス、初期の立ち上げメンバー、入社2、3年目の若手まで幅広いメンバー、合計7人で構成しました。月に1、2回集まって話すことに前向きな反応を示してくれた現場の人たちを選びましたね。公募ではなく、候補を出して順番に声をかけていった感じです。年次もポジション、実績も関係なく選びました。

 

もちろん、成長して今後新しい店舗を任せられる人材に育ってほしい人、という観点はありましたが、選定時点ではそこまで意図していませんでした。先ほどお話したように、結果として、彼らが屋台骨を支えてくれるようになったわけですが。

 

ーー一般的に、「理念策定・浸透」のプロジェクトには、次世代リーダーとして育成したいメンバーで構成することが多いですが、あくまで「結果的に」だったのですね。

 

はい、わりと「結果的に」ですね(笑)。というのも、このプロジェクトを進める中で目立たなくても日々しっかりと事業を支えてくれている「次世代リーダー」が可視化された面もあったからです。

 

例えば、アワードでとても優秀な成績を収めた店舗があったのですが、表彰を通じて、これだけ自社のバリューに則ってお客様のために素晴らしい行動をするカルチャーの中心に誰がいるのかが、可視化されました。実際その中心人物は4年経った今も大活躍して会社に貢献してくれています。また新しい支店を立ち上げる時も、そういう人材に現場のスタッフのマインドを上げる役割を果たしてもらっています。

 

 

ーー「次世代リーダー」の育成だけでなく、「次世代リーダー」になりうる「縁の下の力持ち」の可視化も「理念の策定・浸透」をすることの大きな意味となりますね。

 

その通りです。また「理念の策定・浸透」のプロジェクトを通じて、全体的に「フォルツァ」に対する自信が可視化されたのもよかったです。以前も私たちの間にふわふわとした愛着みたいなものはあったんです。でも、どこか「フォルツァ」というブランドは社長である清原(当時)が作ったという雰囲気が漂っていて……。

 

それが今や「私たちのフォルツァ」になったのは嬉しい変化ですね。その輪が今後さらに全国の店舗に広がり、「フォルツァ」に対するプライドも芽生えたと手応えがありました。それが1年足らずで起きたのは驚くべきことだと思います。

 

ーー「社員がイキイキと自走してくれる」というのは、経営者として誰もが実現したい理想状態だと思いますが、これが現実のものとなった、ということでしょうか?

 

はい、まさに、です。コロナ前後を経験して「理念浸透」の大切さはヒシヒシと感じるばかりなので、今後もさまざまな施策を通じて、「フォルツァで働く楽しさ」を「ね、いいでしょ!」と、またみんなで共有できるようにしたいですね!

「企業理念ラボ」には、

企業理念の言語化や浸透策の
事例が豊富にございます。
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株式会社エフ・ジェイ ホテルズ 

清原 邦彦さん

1972年生まれ。慶應義塾大学卒業後、ロンドン大学SOAS校へ留学。1998年、福岡地所株式会社へ入社。会長兼総支配人としてチェコ・ヤルタホテル出向、その後ハイアット リージェンシー福岡 総支配人などを経て株式会社 エフ・ジェイ ホテルズ 代表取締役社長に。現在は、株式会社 FJアーバンオペレーションズ 代表取締役社長、アールエヌティーホテルズ株式会社 取締役を務める。

会社情報

社名
株式会社エフ・ジェイ ホテルズ
代表者
中島あゆみ  ※清原さんは現在福岡地所の運営企業を統括する会社の代表
本社所在地
福岡市博多区住吉1-2-82
従業員数
約200人(2023年時点)
設立
2021年 6月
事業内容
ホテル業 小売業 飲食店業 不動産の売買・賃貸・仲介・管理
会社サイト
https://www.fj-hotels.jp/
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