INTERVIEW

明治14年創業、環境に正しい「印刷しない印刷会社」
大川印刷の生き残り戦略

興味のあるトピックが一つでもあれば、この記事がお役に立てるかもしれません。

  • 創業142年、「薬品ラベルの印刷」からスタート
  • 苦境の中、石油系溶剤0%の「環境印刷」に挑戦するも、15年泣かず飛ばず
  • 130年前の新聞広告にもある「企業の背骨」が脈々と続く
  • 「理念を実践できる人材」を育てるために続けている意外なこと
  • 「印刷しない印刷会社」として次に目指すこと

有名・無名と問わず、日本中の「すんごい100年企業」を発掘していく「企業理念Times」の連載。生き残る理由を「企業理念」の観点から丁寧に紐解いていきます。今回は、明治14年(1881年)創業の大川印刷。

 

石油系溶剤0%、100%再生可能エネルギーの「環境印刷」にいち早く取り組むことで時代を先取りし、安定した経営を続けています。その「強さ」の秘訣を6代目代表取締役社長大川哲郎さんに聞きました。

(聞き手:企業理念ラボ代表:古谷繁明)

◆創業142年、「薬品ラベルの印刷」からスタート

◆創業142年、「薬品ラベルの印刷」からスタート

ーー最初に大川印刷の会社規模と沿革を教えていただけますか?

 

創業は明治14年、西暦1881年で、今年142周年を迎えます。現在、社員はパートを含めて40人、売上高は約5億3000万円です。

 

私の曽祖父、創業者の大川源次郎の実家は、薬種貿易商でした。源次郎は外国語で書かれた輸入医薬品のラベルの美しさに惹かれ、印刷が将来有望な産業だと感じたそうです。それで、ドイツとイギリスから印刷機を輸入してこの事業を始めたのが、源次郎24歳くらいの時です。

 

長い間、一般商業印刷物という呼び名で薬の効能書、弁当の掛け紙、地域企業のパンフレットやチラシの印刷などを手がけてきました。印刷会社が少ない時代には日本全国、また、海外からも注文があったそうです。

 

創業以降、日清・日露戦争、関東大震災、世界大戦に遭遇し、震災では工場や倉庫も甚大な被害を受けました。また、オイルショックの時に紙が手に入らなかったりと、様々な時代の荒波を乗り超える経験をしています。

 

私が代表取締役社長に就任したのは、1991年、25歳の時です。大学2年の時に、父が急逝し、大学を辞めて会社を継ぐことも考えましたが、専業主婦だった母が5代目社長に就任することになったのです。私は卒業後、同業他社に3年ほど務めた後、6代目社長になりました。

 

ただ、その少し前にバブルが崩壊し、グローバルスタンダードの時代を迎えました。価格競争に悩まされ、購買や仕入れなどを見直しましたが、それでも取引先から「高い」と言われ、どんどん仕事を失い売上げが半分に落ちましたね。

◆苦境の中、石油系溶剤0%の「環境印刷」に挑戦するも、15年泣かず飛ばず

◆苦境の中、石油系溶剤0%の「環境印刷」に挑戦するも、15年泣かず飛ばず

ーー苦しい時代だったのですね。

 

そうですね。何をやればいいのかを模索する中で、関心のあった環境問題にアプローチしたいと思い、「環境印刷」を始めました。ただ、これも鳴かず飛ばずの時代が15年ほど続き、やっと動きだしたのは、SDGsが話題になった頃からです。

 

ーー当時から環境にアプローチされていたとは、先見の明がおありですね。環境印刷とはどのようなものですか?環境にこだわられたきっかけは?

 

環境印刷に取りくんだのは、私が会社に入って5年目くらいです。その定義は時代によって変わりますが、スタート時は、再生紙に大豆インキを使いました。石油系溶剤0%のインキを使うことを環境印刷と呼び、それに完全シフトしたのが、20年ほど前です。

 

2019年には「100%再生可能エネルギー」の「風と太陽で刷る印刷」を実現。

太陽光パネルを使った自家発電で約20%、残り約80%は青森県横浜町の風力発電の電力を購入しています。現在は、それも合わせて環境印刷と呼んでいます。

 

環境へのこだわりは、自分の幼少期の体験に基づいています。生まれ育った横浜は、自然豊かで、特に磯子区は自然が豊かで、家の庭にサワガニが上がって来たり。私は昆虫や生き物が好きで、今でも家でカエルを飼っていますよ。会社では「ウェルビーイング」(well-being)に繋がる活動として、デスクワークの社員は一人一つの植物を育てることを進めています。

◆130年前の新聞広告にもある「企業の背骨」が脈々と続く

ーー結論から伺いますが、ずばり「100年企業」になれた理由はどこにあるとお考えですか?

 

先代社長の母は「人間尊重の経営」と言いましたが、人を大切にしてきたことが、長く続いている一番の要因だと思います。企業は「この社長の代は」という捉え方をされがちですが、初代から6人の経営者がいて、その元で従業員が一緒に仕事をしている。そして、自分たちが会社の歴史を作っているという想いがあり、それを繋いで来たからこそ今日まで続いているのでしょう。

 

130年ほど前の弊社の新聞広告が残っていて、そこには企業理念というか、弊社が大切にしている事柄が書かれています。例えば、「徒らに価格のみの競争をせざる」という文言が記されているのですが、それも「人」や「社会全体」の利益に目を配るという姿勢の表れだと思っています。

 

時代背景を少しお話ししますと、当時、日本のシルクロードと呼ばれた群馬や長野で生産された生糸が、八王子を通って、横浜港に届くルートがありました。しかし、生糸の輸出が盛んになり、劣悪な商品も出回り始めたので、品質保証のために生産地のラベルを商品に貼るようになったのです。そして、そのラベルを印刷したのが弊社だったわけです。自分の利益のみを考えるのではなく、顧客はもちろん社会全体のことを考えて思考し、行動し、それに共感する人に支えられることで、会社は長く続くのです。

 

企業理念を認知・浸透させたいと考える経営者は大勢いますが、簡単にはできない。理念を言って、見せて、伝えるだけでは、行動に繋がらないんですね。

弊社では「共有、共感、共鳴」をキーワードに、まず、会社、社会、世界で何が起きているのかを情報共有することを意識しています。そして「困っている人のために何をすべきか?」と声が上がり、それに共感する。ただ、共感だけで人は動かないので、何ができるのかを考えて「自分にもできる、やらなくちゃ」と共鳴する。その流れを大切にしています

 

ーーまさにそれが140年続く「企業の背骨」なのですね。

◆「理念を実践できる人材」を育てるために続けている意外なこと

◆「理念を実践できる人材」を育てるために続けている意外なこと

ーー「共感」を生み出すために、どのようなことをされていますか?

ちなみに弊社では「人材」は使用せず「人財」という書き方で統一しています。これは従業員さんから話が上がったことでした。「『人材』は材料のように取り替えられるもの。私は取り換えられるのではない『財(たから)』としての『人財』になりたいと言われたのがきっかけでした。

一見、仕事に関係ないことでも、色々な体験をしてもらいます例えば、従業員に廃棄物分別の問題を考えてもらうために、実際に分別の現場に行ってもらう。すると「オムツまでこんなふうに分別しているんだ」と驚き、「これじゃまずいよね」と気づく。 その他にも同じ県内に日本フードエコロジーセンターという食品廃棄物から飼料を作る会社があって、「第2回ジャパンSDGsアワード」で内閣総理大臣賞を受賞しているのですが、そこを見学させてもらったこともあります。

 

また、今年、映画上映会&交流会も始めました。世界中の様々な問題を取り上げたドキュメンタリー映画を見て、従業員やクライアントが心を動かされ、一緒に何かやろうという気持ちになることを期待しています。

 

ーー御社の理念、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)は、具体的にどのようなものでしょうか?

 

先代の時代に、会社の改革に熱心な番頭さんのような社員がいて、初めて基本理念を作ろうということになりました。

 

会社のホームページで「株式会社大川印刷は情報産業の中核として信頼に応える技術力と喜びを分かち合える『ものづくり』の実現を基本理念とする」と紹介しています。「喜びを分かち合える」は、従業員同士はもちろん、弊社の顧客、さらに顧客の顧客とも喜びを分かち合えること、さらに社会や地球と分かち合えるという発想も加わります。

 

ビジョンは、「2025ビジョン」として、「大川印刷はしあわせを社会につなげていきます」のタイトルで会社ホームページに載せていますが、これは不定期に社員主導で作り変えています。

 

弊社はプロジェクトチームの活動を単年度で動かしており、その中にビジョン策定委員会があります。ビジョンの作り方はチームに委ねるので、時代によって異なります。ワークショップを開いてみんなで意見を出し合うパターンがあれば、プロジェクトチームで作ったものを提示して意見をもらうパターンもありますね。

◆「印刷しない印刷会社」として次に目指すこと

◆「印刷しない印刷会社」として次に目指すこと

ーー今後の展望を教えてください。

 

先ほどの基本理念ですが、印刷が「情報産業の中核」ではなくなって来たので、見直す必要性があると思っています。 

 

実は、ペーパーレス化の問題も含めて、「印刷しない印刷会社」というのもがあり得るのではないかと。2019年に『人新世の資本論』の著者の斎藤幸平さんを招いて、弊社スタジオで討論しました。その時、「脱成長、脱資本主義の中で、大川印刷はどうするのか?」と質問され、パッと頭に浮かんだのが、「印刷しない印刷会社」。

 

それには二つの意味があります。一つは、印刷する必要のないものは「印刷しない方がいいです」と提案できる会社。もう一つは、印刷以外の部分でサポートできる会社という意味です。

 

具体的には紙とデジタルの利活用の最適解を提案するということです。また、デジタルサスティナビリティという概念を参考に、デジタルの領域でもCO2の削減を考え、顧客に提案していきたいと考えています。

 

2017年にリブランディングした時のスローガンは「環境印刷で刷ろうぜ!」でしたが、今は「刷るな!」の時代です新スローガンは、練りあげている最中ですが、「Do the right thing」にしようかと。儲かるかどうかに関係なく、正しいことをやるというコンセプトで会社を築く時代になっている気がします。

再エネやカーボンニュートラルも、「時流だから」とか「上から言われたから」ではなく、自分で何が正しくて、それを実現するにはどうするべきかを考える。それで、正しいことをやれ、「Do the right thing」です。

 

ーー今後はどのようなチャレンジをされるのですか?

 

ペーパーレスを逆手にとり、文書資産のデジタル化保存サービスを始めます。

文書を段ボール単位で預かったり、文書のデジタル化、AI、OCR、Chat GPTへの展開、不要文書の溶解処理後再生紙化などです。文書のデジタル化には、書籍を断裁せずに、1時間で最短2500ページがスキャンできるロボットを使用します。このプロジェクトは、神奈川県ビジネスモデル転換事業補助金の採択事業となりました。

 

ただ、どんなにペーパーレス化を進めても、紙資料で残したいものはあります。安全管理のためにスマホに保管できないもの、実体のある紙資料として残しておきたい記念すべきものなど。そのようなものには紙を使う。つまり、全く印刷しないのではなく、必要あるものは印刷し、必要ないものは印刷しない印刷会社を目指します。

「企業理念ラボ」には、

企業理念の言語化や浸透策の
事例が豊富にございます。
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お気軽にお問い合わせください。

企業理念ラボにちょっと相談してみる。 | 企業理念ラボ 理念を作ったその後に、9割の企業が直面する「“浸透の壁”」を乗り越える具体的な方法と事例を解説

株式会社大川印刷 

大川 哲郎さん

東海大学法学部法律学科卒。1993年に株式会社大川印刷入社。1990年代後半には環境経営を開始し、新たなパーパスの作成にも取り組み、2005年に代表取締役に就任。2018年「第2回ジャパンSDGsアワード」「SDGsパートナーシップ賞」『グリーン購入大賞「大賞」』「環境大臣賞」など多数受賞。2019年には再生可能エネルギー100%工場を実現している。

会社情報

社名
株式会社大川印刷
代表者
代表取締役社長 大川 哲郎さん
本社所在地
神奈川県横浜市戸塚区上矢部町 2053
従業員数
33名
創業
1881年
事業内容
印刷業・コンサルティング事業・動画スタジオの運営・文書の保管およびスキャニング~AI OCR、CHAT GPT対応サポート
会社サイト
https://www.ohkawa-inc.co.jp/
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