INTERVIEW

明治40年創業、福岡の知られざる超優良メーカー商社・リックスの「たった一つの教え」

興味のあるトピックが一つでもあれば、この記事がお役に立てるかもしれません。

  • 創業117年、足袋の販売代理店業がきっかけで鉄鋼業界へ
  • 「ロッキー山脈を超える!」新社名に思いを込め海外進出
  • いつ生まれたか不明でも、強力に根付いていた「教え」
  • 新規範は社長自ら「業務中のあるある事例」を元に解説する
  • 「何屋さんなのですか?」という問いに明確な答えを

有名・無名と問わず、日本中の「すんごい100年企業」を発掘していく「企業理念Times」の連載。生き残る理由を「企業理念」の観点から丁寧に紐解いていきます。今回は、明治40年(1907年)創業のリックス株式会社。

地下足袋の卸売りからスタート、様々な顧客のニーズに応える課題解決型のメーカー商社として今日まで発展し、黒字経営を続けています。その「強さ」の秘訣を7代目代表取締役社長執行役員安井卓さんに聞きました。

創業117年、足袋の販売代理店業がきっかけで鉄鋼業界へ

創業117年、足袋の販売代理店業がきっかけで鉄鋼業界へ

ーー創業から貴社の沿革を教えていただけますか?

 

1907年、足袋の卸売業「山田商店」として創業しました。その後、足袋の技術革新が起こります。しまや足袋本舗(ブリヂストンの前身)がゴム底の地下足袋を製造しており、そこの販売代理店として当時操業したばかりの官営八幡製鉄所に足袋を納入しはじめたのがきっかけで、100年以上経った今でも当社のメイン顧客は鉄鋼業界です。

 

卸売業者として鉄鋼業界に出入りすることになり、工場などでお客様の様々な困りごとが見えてきたり、相談されたりすることが増えてきました。そのなかで、当時海外製品しかなかったオイルシール*を日本で取り扱うことができないかという相談があり、日本油脂工業さん(現・NOK株式会社)の製品を取り扱うことができるようになったのです。

 

足袋を扱っていた頃はBtoCとBtoBの取引割合が半々でしたが、これをきっかけにBtoBの取引が圧倒的に増えます。当初は商社としての役割のみでしたが、ロータリージョイントなどを製造し始めたことで、モノづくりと商社をミックスした「メーカー商社」として業態を拡大したわけです。現在は、自動車や半導体をはじめとする8つの業界と取引をしています。

「ロッキー山脈を超える!」新社名に思いを込め海外進出

「ロッキー山脈を超える!」新社名に思いを込め海外進出

1990年には現在の「リックス(RIX)」に社名を変更し、海外展開を視野に入れ始めました。ちなみに、リックスの「R」は当社の自社ブランド「ロッキー」の頭文字から取っています。まだ海外における売上の目途が立っていない当時、「自社製品やサービスをアメリカのロッキー山脈を越えて届けたい」という想いを込めて命名しました。「I」は顧客である産業界(Indstry)の頭文字、そして無限の可能性を表すX、この三文字を繋げて新社名としました。

 

ーー大事にされているシリーズ名から新社名を取られたのですね。

 

はい。2000年代から海外進出を本格化し、今は7か国に12拠点展開しています。そして、最初に福岡証券取引所に上場し、リーマンショックなどもありましたが現在は東証プライム市場に上場しています。

 

いつ生まれたか不明でも、強力に根付いていた「教え」

私で7代目ではあるのですが、実は創業者一族の生まれではありません。先代の6代目は当社初のプロパー社長で、その前の社長たちも創業者の血縁者ではありますが、必ずしも直系で社長業を繋いできたわけではありません。

 

私自身は別企業のメーカーに技術職として就職しましたが、創業者一族である妻の父がリックスの社長(5代目)を務めていたことから、リックスへの入社を勧められました。当初「技術畑の自分が商社でできることがあるのだろうか…」と入社を悩みましたが、リックスは単なる商社ではなく「メーカー商社」なので、自分も少しは役に立てるではと入社を決意しました。

 

2006年に入社し、まずは工場に配属してもらい技術面を学んだあと、経営を学ぶためイギリスへ留学し、技術以外のことも吸収してきました。そして2019年、40歳の時に7代目社長となりました。

 

ーー110年以上続いた一番の要因は何だと分析されていますか?

 

やはり当社の「理念」だと思います。「善悪を損得に優先させよ」という行動規範が当社にはあり、この存在が一番大きいと感じています。

かなりの利益が見込まれる案件が発生した場合、それをやるべきかどうかの判断を「善悪の判断」を優先して行う。その姿勢を一貫させていることこそ、当社が110年以上続いている一番の要因だと実感していますし、これがなかったらとっくに消滅していたと思います。

 

 

ーーこの「善悪を損得に優先させよ」という教えはいつからあるのでしょうか。

 

いつこの教えが当社にできたのはわかりませんが、少なくとも半世紀は社内で受け継がれています。社名がリックスに変わった頃に作成した行動規範を元に、今、新しい規範として「RIXing Action」としてまとめ直しているのですが、その中でも冒頭に掲げているのがこの言葉です。

 

「RIXing Action」 行動指9つ(2022年策定)

 

No.1 善悪を損得に優先させよ

No.2 逃げない

No.3 一丸となって団結に徹せよ

No.4 明るく楽しく伸び伸びと

No.5 世界のお客様の伴走者であり続けること

No.6 ファミリーを発展の源泉と捉え自己実現の場を提供すること

No.7 取引先様にとってお客様との懸け橋になること

No.8 持続可能な社会の一翼を担うこと

No.9 投資をしてくれる皆様の期待に応え続ける

 

 

ーーどのようにこの理念を社内に浸透させてきたのでしょうか。

 

私が入社した2006年の時点ですでに行動方針としてありました。DNAとして社内で受け継がれてはいますが、実践するのは難しいと感じています。

 

この姿勢を過去の先人たちが言葉として紡ぎ、私たちも新たに行動規範を制定する際には、この言葉がなくてはと考えました。社員たちも「(この考え方は)当たり前だよね」「当たり前に実践している感覚でしたが、改めて言葉にするといいですね」という反応でした。つまり、社長の私が「やりなさい」と言わなくても社内で自然に浸透していたのです。

 

社内に小さな不祥事があった場合、元をたどればちょっとした出来心が原因だったりしますが、だいたいの場合、「理念」に立ち返れていれば起きないようなことがほとんどです。不祥事があった場合、この言葉を引き出して振り返りをするようにしています。

 

当社には「世界のお客様の伴走者であり続けること」といった言葉もあるのですが、お客様によっては無理難題を押し付けてくる「悪」の要素を持っているケースもありえます。その場合、担当としては悩んだり迷ったりすることもあるでしょう。そういう時は、この理念に立ち戻りなさいと話しています。

新規範は社長自ら「業務中のあるある事例」を元に解説する

新規範は社長自ら「業務中のあるある事例」を元に解説する

新規範「RIXing Action」として挙げたのは、社名変更の際に策定した経営理念や行動規範をわかりやすく噛み砕いて、社員一人一人のアクションに落とし込めるようにしたものです。社員自身のふるまいにはじまり、取引先企業や株主などのステークホルダーに対してはこういう行動や考え方をしますという基本姿勢を示していますが、基本的にはすでに社内で踏襲されていたものを言語化したにすぎません。

 

ーーアクションプランを浸透させるため、パンフレットを作成し社内で配布すること以外に、どのようなことをされていますか。

 

ベタなやり方かもしれませんが、アクションを唱和しています。他には社長の私が社内研修の冒頭で直接この話をするようにしていますね。また、社内に「RIXing Action」を浸透させるチームを組織しました。

 

実は反省点もあって。最初は作成したパンフレットを配布するだけに終わってしまっていたんです。このアクション自体が人材育成の指針にもなっているのでこれではいけないと、今は私自身が社内研修のトップバッター講師として登壇し、直接アクションについて話をするようにしています。

 

他にも、ケーススタディー形式で「実際に日々の仕事の中でこういう事態に直面したら、あなたならどうしますか?」と問いかけることも意識しています。というのも、本人はお客様のことを思って行動したつもりが、実際には「善悪の判断」から外れてしまっていたというケースもありうるからです。

 

――「RIXing Action」の言葉一つ一つに力がありますね。制定までの意思決定のプロセスを教えていただけますか?

 

営業、生産本部、開発本部、本社の管理部門といったさまざまな部署、そしてさまざまな年代の社員20名ほどを集めてプロジェクトチームを編成しました。そのメンバーで当社の強みや長所を持ち寄ってもらい、合宿の場で議論を重ね取捨選択していきました。

 

最終形に落とし込む仕上げの合宿は1泊2日で開催しましたが、それまでの事前準備には2年ほどかけました。

No1からNo.4までのアクションを私たちは「ファンダメンタル」と呼んでいるのですが、リックスの社員としての考え方や行動の仕方を示したベーシックな部分です。No.5からNo.9は色も赤に変えて、主たるステークホルダーに対して「我々はこういう考え方をし行動します」という方向性を示しています。

 

当時「〇〇Way」「〇〇イズム」が流行していたことも背景にあるのですが、社内でも「人材育成の幹となる部分が欲しいよね」という議論もあり、経営企画部の社員たちと「どんな形になるかはわからないが、一度作ってみましょうか」と始めました。実は私自身は最初は半信半疑だったのですが(笑)。

 

「RIXing Action」という名称も社内公募で決めました。現在2030年に向けての長期ビジョンを推進中です。前回2020年に向けてビジョンを策定した際に「RIXing Action」の案が生まれました。2030年の長期ビジョンでは、「RIXing Action」が一つの軸や幹になる考えています。

 

 

ーーそんなふうに、理念や行動指針というものが、経営の計画と両輪になって会社を前進させてくれているわけですね。

「何屋さんなのですか?」という問いに明確な答えを

――安井社長が一番大切にしている理念は何ですか?



「RIXing Action」のNo.1からNo.4で掲げている理念すべて、ですね。一つには絞れないです(笑)。

 

No.1 善悪を損得に優先させよ

No.2 逃げない

No.3 一丸となって団結に徹せよ

No.4 明るく楽しく伸び伸びと

 

経営という役割を担っていると、予期せぬことはたくさん起こります。私が2019年に社長に就任した後は、コロナが何より怖かった。地震などの天災への対応は過去にもありましたが、感染症はいつ収束するのか、どう対応すればいいのか、まったくわからず完全に未知の領域でした。

 

そんな時に力になってくれたのはNo.4です。先が見えずに不安だらけの時こそ、「明日は晴れの精神で、雨はいつかはあがる、夜明けは必ずくる」と気持ちを切り替えられる言葉が大きな支えとなりました。

 

―――次の100年の展望を教えてください。

 

2024年度より、3ヵ年計画「GP2026」をスタートさせましたその中で掲げているのが「世界中のものづくりの課題解決屋になる」という言葉です。

 

いまだに「リックスは何屋さんですか?」と聞かれることがあります。その問いに対する答えを「世界中のものづくりの課題解決屋」と明確に定義したわけです。私自身もこの言葉が出てきた時に一番腹落ちしました。100年というタイムスパンではないかもしれませんが、まずはこれを実現し、「リックスは世界中のものづくりの課題解決屋さんだね」と認識してもらえるよう前進していきたいと思います。

 

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リックス株式会社 

安井卓さんさん

1978年、佐賀県生まれ。2003年九州大学大学院総合理工学府物質理工学専攻修了、同年4月に古河電気工業株式会社に入社。2006年4月にリックス株式会社に入社。事業企画、海外子会社管理部、営業本部などを経て、2019年より現職。同社のあるべき姿を「世界中のものづくりの課題解決屋になる」とし、産業界への貢献を常に念頭に置く。野球好きの息子と野球観戦やキャッチボールの時間を楽しむなど、ライフ・ワーク・バランスを自らも率先している。

会社情報

社名
リックス株式会社
代表者
代表取締役社長執行役員 安井卓さん
本社所在地
福岡県福岡市博多区山王1丁目15-15
従業員数
(2024年3月31日時点) 723人(連結)
創業
1907年
事業内容
産業機械の製造・開発・販売を担うメーカー商社
会社サイト
https://www.rix.co.jp/
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