INTERVIEW

親から事業承継する次期経営者として
「自走できる組織」を作っておきたい

もし、一つでも当てはまることがあれば、この記事がお役に立てるかもしれません。

  • 親から経営を引き継ぐ立場として、グループ全体を束ねる「何か」が欲しい。
  • 経営者の世代交代が起きても「自走できる組織」を作っておきたい。
  • 教育・保育・介護・医療の分野で、職員のビジネススキルを向上させたい。

日本企業全体の9割以上が、特定の親族や一族によって経営されている、いわゆる「同族企業」であると言われています。親から子へ「家業」が引き継がれても、事業がブレることなく、安定して組織が運営されていくにはどうすればいいのか?

 

これから子世代に事業を引き継ぐ現在の経営者も、そして今後、親から事業を承継することになる将来の経営者も、共に頭を悩ませる問題です。

 

今回は、福岡と東京で幼稚園や保育園を47年にわたり営む「もみじグループ」の次期経営者(3代目)として理念策定・浸透に取り組んだ尾上貴彦さん・雅彦さんにお話を聞きました。

 

理念の刷新に合わせてリニューアルした会社のホームページ。次の世代でも大切にしていきたい「もみじグループ」の教育の軸を温かさを込めて表現。

理念の刷新に合わせてリニューアルした会社のホームページ。次の世代でも大切にしていきたい「もみじグループ」の教育の軸を温かさを込めて表現。

将来「3代目」になる立場として、グループ全体を貫くものが欲しい

将来「3代目」になる立場として、グループ全体を貫くものが欲しい

もみじグループは、僕たち二人の祖父にあたる尾上正信が、昭和51(1976)年に紅葉幼稚園を開いたところからスタートしていて40年以上の歴史があります。僕たち兄弟は3代目に就任予定で、現在は2代目である理事長から継承の途中。まさに自分たちの時代にグループ全体をどのように運営していくかを考えるタイミングにありました。

 

とはいえ、最初は、グループ全体をまとめる「理念を策定したい」「行動方針を作りたい」という目的意識まではなく、長らく使用していた法人のホームページが古くてわかりづらい状態だったので、「そろそろリニューアルしたいな」くらいの軽い気持ちでした。でも、ホームページをリニューアルするなら、「もみじらしさ」を貫く軸として理念や行動指針が必要だよね、という話になったのです。

 

 

もちろん、先代から一応教育理念や職員のための行動指針はあり、ある程度理解して働いてくれていると感じてはいました。でも、制定してから何十年も経過していることもあり、今一度ゼロベースで策定したい、「どのように働きたいか?」「どんな子どもたちを育てていきたいか?」を言語化し、何より現場のスタッフにとって納得感の高いものにしたいと考えていました。

「理念策定」を通じて職員のビジネススキルが向上

ただ、「トップダウンでやりすぎるのはよくないかな」と思っていたので、理念浸透アドバイザーの方の指導のもと、現場で子どもを見ている先生を10名ほど個別にスカウトしました。先生たちには「今度新しいことを始めるから来て」としか伝えなかったので、みんな「何が始まるのだろう…」と戦々恐々としていましたね(笑)。

 

こうして理念の策定がスタートし、最初は理念浸透アドバイザーの方に伴走していただきながら2、3週間に1回3時間のミーティングを、合計10回を組みました。でも、現場の先生たちはこれまでの人生でビジネスミーティングをした経験は、当然ながらゼロ。大学生の時から保育士や幼稚園の先生になるための勉強をしてきた方々なので、始動当初の雰囲気は緊張したものとなりました。

 

 

定例のミーティングに加え、理事長や保護者、OB職員へのインタビューなども行いました。また並行して、日頃先生たちが現場で意識していることもディスカッションして挙げていく作業もしました。課題設定の仕方、個々の作業の進め方、資料の作り方など、すべてのプロセスにおける職員の教育も理念浸透アドバイザーの方がしっかりしてくださり心強かったです。特に、毎回ミーティングで良かった点、悪かった点を自分たちでフィードバックする経験は本当によかったと感じています。

 

そして、最終的にプロジェクトメンバー全員で8つの言葉を選び、職員の行動指針を定めました。それが、プロのコピーライターの方の手も借りて言語化した「もみじクレド」です。プロジェクト始動から30時間ほどは、このクレドを、職員みんなでいわば放課後の部活みたいな感覚で作り上げていった感じです。

 

理念策定プロジェクトの中で生まれた「もみじクレド」。保育園や幼稚園の先生が、毎日の仕事の中で立ち返れるところを「こどもがまんなか」という言葉に。
理念策定プロジェクトの中で生まれた「もみじクレド」。保育園や幼稚園の先生が、毎日の仕事の中で立ち返れるところを「こどもがまんなか」という言葉に。

 

もみじ色にデザインされた愛らしいクレドが園の中にも。忙しい日々の中でも、ふと目を向けたくなる温かみを大切に。
もみじ色にデザインされた愛らしいクレドが園の中にも。忙しい日々の中でも、ふと目を向けたくなる温かみを大切に。

 


持ち歩ける「もみじ手帳」も制作。先生方に一人一冊お渡しして、迷った時も悩んだ時も、立ち返っていただける場所に。

経営者として「職員に任せる」を覚える機会に

最初「ホームページをリニューアルしよう」というところから「行動指針(クレド)」を作ることになったわけですが、実際にやってみて驚いたのは「職員の伸びしろ」でした。中学校や高校の部活を想像するとわかりやすいですが、3年間部活に打ち込んだ生徒は非常に成長しますよね。行動指針の策定でも、まさに同じような「成長」がプロジェクトに参画した職員に見られました。物事にゼロから取り組んで形にする経験を積むことで、ここまで成長するのだな、と。

 

当初は、職員は物事を改善していくための方法を自力ではなかなか見つけられずにいました。そこで、毎回のミーティングの最後の30分は、メンバーから進行役のリーダーやサブリーダーにフィードバックする時間を設けるようにしていました。その場に同席している理念浸透アドバイザーの方から、「改善策をもっと具体的に指摘してください」「もっと厳しいフィードバックをしてください」と適切なダメ出しが差し込まれることも、職員のリーダーシップ育成に繋がったと感じています。

 

この過程で一番大変だったのは、僕たち二人があえて口を出さないことでした。ミーティングには同席しても最後までなるべく口は出さずに職員に任せることを意識していました。理念浸透アドバイザーの方からも「口を出したくなっても我慢してください」と強く言われていましたので。

 

3年で職員が完全に自走できる状態を目指す

行動指針(クレド)は、プロジェクト開始から約半年で完成し、残りの半年はその浸透に取り組みました。最初の1年は理念浸透アドバイザーの方にサポートしてもらいながら「浸透の土台」を作りました。そして3年かけて職員で理念を実践し、完全に自走できる状態を作るという計画です。

 

行動指針(クレド)の浸透のために、1年に一回の「アワード」を導入しました。

 

2週間に1回、各園で職員に8つの行動指針から1つを選んで意識して仕事をしてもらい、2週間が終わったところで、同僚のうち誰が一番その行動指針を実践できていたかを、具体的な行動とセットで挙げて表彰するというものです。そして、その集大成としてグループ全体で年1度「アワード」を開催するのです。3年目になりましたが、本当に素晴らしい取り組みに成長したと感じています。

 

新しい理念に合わせてロゴも刷新。言葉にも、空間にも、こどもたちの成長を見守る「温かさ」を込めて。
新しい理念に合わせてロゴも刷新。言葉にも、空間にも、こどもたちの成長を見守る「温かさ」を込めて。

年間70名採用でも「入社後のミスマッチ」が激減

行動指針(クレド)の策定と合わせて、職員採用のためのポスターも制作しました。

このプロジェクトの最中に施設数が3から10に、従業員数も70名くらいから200人台に一気に増えました。1施設につき20人ほどの保育士や専門職の方を採用するのですが、仮に1年で2施設ペースで開業したとして、既存施設の職員の入れ替わりも加えると、合計で年間60-70名ほどの採用が必要となります。しかも保育士資格を持っている人の採用は、比較的難易度が高いのです。

 

この採用数を達成させるために、理念浸透アドバイザーの方と理念に基づいたリクルート用ポスターを作りました。完成度は非常に高く、2020日本BtoB広告賞で3位を獲得したほどです。ちなみに、その年は1位NECさん、2位クボタさん、3位もみじグループでした(笑)。

 

採用で大きな効果のあったポスター。理念に共感した素晴らしい次世代リーダー候補の採用に成功。
採用で大きな効果のあったポスター。理念に共感した素晴らしい次世代リーダー候補の採用に成功。

 

こうして、さまざまな方向から行動指針(クレド)を浸透させたことで、採用面のミスマッチは確実に減りました。採用後の新人教育にも「8つのクレド」を盛り込み、現場の教育に反映することで人間性のミスマッチ削減にも成功。また入社後のアンケート結果でも「8つのクレドに惹かれて応募した」という回答が見られました。採用面の効果は大いにあったと実感しています。

 

僕らがいつグループの3代目となるかはわかりませんが、世代交代を安心して迎えられる「組織の土台」ができたのではないでしょうか。

「企業理念ラボ」には、

企業理念の言語化や浸透策の
事例が豊富にございます。
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もみじグループ 

尾上 雅彦さん

社会福祉法人信正会 理事。尾上貴彦さんの実兄。2016年から家業に戻ると同時に東京進出を展開。2015年時点で福岡のみで3施設の運営をしていたグループを、現在東京と福岡で10の施設に弟の貴彦さんと拡大。弟からは「ポンコツな兄貴」と呼ばれているとのこと。

もみじグループ 

尾上 貴彦さん

学校法人福岡幼児学園理事。2016年から家業である学校法人に戻り、福岡市の紅葉幼稚園で勤務をスタート。2019年には“これからの子ども・子育て支援”をテーマに「もみじのいえ保育園」を開園し園長を務める。同年、「豊かな家族の時間が、より豊かな社会をつくる」という理念のもと「株式会社かぞくのじかん」を立ち上げる。

会社情報

社名
学校法人福岡幼児学園/社会福祉法人信正会(しんせいかい)
代表者
理事長 尾上 正史
本社所在地
福岡県福岡市早良区田村6-21-7
従業員数
232人(2022年12月時点)
創業
1976年3月15日
事業内容
幼稚園・認可保育所・認定こども園・企業主導型保育所の運営など
会社サイト
https://group.momiji.ed.jp/
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