INTERVIEW

カリスマ創業者の後を継ぎ、苦悩し
たどり着いた「しあわせ」「感謝」の経営

興味のあるトピックが一つでもあれば、この記事がお役に立てるかもしれません。

  • 一軒のレストランから全国にファンがいる会社へ
  • 社員みんなの声を集めて「PIETRO VISION」を作成
  • カリスマ創業者の後を継ぎ、自分なりの社長像を模索
  • 創業者の言葉をつづった小冊子でDNAを継承していく
  • ビジョンをアップデートし、より良い未来へとつなげる

1980年、福岡市で一軒のレストランとして始まった株式会社ピエトロ。創業から45年を過ぎた今、全国に46店を展開し、店から生まれた「ピエトロドレッシング 和風しょうゆ」は累計出荷本数3億本を突破するほどの人気ぶりです。

そんなピエトロを率いるのは、カリスマ創業者として知られていた村田邦彦社長の急逝により、2017年に二代目社長に就任した高橋泰行さんです。社長としてやるべきことを模索した日々から、一人ひとりの声と力を引き出す経営スタイル、今後の展望まで、穏やかな笑顔で飾ることなく語ってくれました。

(聞き手:企業理念ラボ代表 古谷繁明)

一軒のレストランから全国にファンがいる会社へ

―会社の創業からの沿革を教えてください。

当社は1980年、福岡市・天神のビルの2階で、36席の小さなパスタレストランとして誕生しました。創業者の村田邦彦は、東京で食べたパスタに感激し、自分なりに磨きをかけて、福岡の人たちにも食べてほしいと6人で店を開きました。「ピエトロ」という店名は、イタリアではポピュラーな名前で、多くの人から愛される店になりたいという気持ちを込めて名付けたそうです。

 

 

―ピエトロが人名に由来していたとは、初めて知りました。どんなお店でしたか。

メニューは、イタリアのスパゲティに明太子や高菜、納豆など和の食材を合わせたオリジナルを提案。麺は本格的なアルデンテにこだわり、注文を受けて茹でたてを出すには、10分ほどお待ちいただくことになります。その間にサラダを召し上がっていただこうと、当時はフレンチドレッシングがメインでしたが、玉ねぎがたくさん入った醬油ベースのドレッシングを作ったところ、非常に好評でした。「このドレッシングなら野菜嫌いの子どもがサラダを食べるので、分けてほしい」という声があり、店にあったワインの空き瓶に入れてお裾分けをしました。そんなご要望が多くなり、創業の翌年にはドレッシングの販売も始めました。

ありがたいことにレストランには行列ができて2号店3号店と増えるのと同時に、ドレッシングも注目を浴びて、百貨店から出さないかと声をかけてもらい、全国に広がっていきました。

 

―ピエトロのドレッシングは、私もなじみがあります。高橋さんはいつ入社されたのですか。

1999年です。会社は創業から20年ずっと成長を続けて、新しい工場を建て、一時期は全国に100店舗以上を展開したことも。私が入社したのは、成長が一息つく手前でした。最初は村田の鞄持ちを仰せつかり、秘書として、いろんなことを教えていただきました。

 

―どんな経緯で転職されたのでしょうか。

もともとANAで働いていて、東京から大阪に転勤になり、たまたま人の紹介で村田に出会いました。ピエトロは上場や海外進出に向け、秘書を探しているところでした。村田の熱い人柄や持っている大きなビジョンに惹かれて、転職を決意しました。当時、村田は50代後半で、私は30代半ば。年は離れていますが、かわいがってもらいました。村田にとって私は「一緒にいて目障りじゃないところが良かった」のだそうです(笑)。

社員みんなの声を集めて「PIETRO VISION」を作成

―御社のサイトを拝見すると、企業理念からピエトロが目指す未来像「PIETRO VISION」まで、きちんと言語化されています。まず経営基本方針は、いつ頃からあったのでしょうか。

創業してから10年経った1990年頃に作ったようです。そして、私が入社した翌年、2000年の創業20周年のときに経営基本方針を見直すプロジェクトが立ち上がりました。共同創業者で現会長の西川啓子と私もメンバーに入り、4カ条にまとめました。創業時、西川は店長として主に接客を担当し、今でもメニューや商品開発に関わっています。

 

―高橋さんは大企業も経験されているので、経営理念について何か違いを感じられましたか。

企業によってはコンサルティング会社に依頼することもあるようですが、当社は自分たちで経営理念を作り、誰でも理解できるように分かりやすい日本語で表現しています。どちらがいい悪いではなく、大きな差があると感じます。

 

―2022年に公表された「PIETRO VISION」では、「しあわせ、つながる」というフレーズのもと、「お客様」「働く私たち」「社会」のしあわせが連鎖する未来を描かれていて、素敵だと思いました。作られたきっかけを聞かせてください。

実は、最初からこんな形にしようと計画していたわけではありません。2020年にコロナ禍に入り、みんなが大きな不安を抱える中、この状況は2~3年続くかもしれないけど、10年も続かないことは歴史を見ても明らかだと思いました。

 

 

そこで、10年後くらいにどんな会社になっていたらいいか、みんなで楽しい話をしようと考えました。2020年に「未来創造プロジェクト」の10人ほどのメンバーが4か月かけて、工場やレストランまで全社員をグループに分け、「こんな未来にしたい」「こうなりたい」という思いをヒアリングしてくれて、2175個の思いが集まりました。その内容がすごく良くて、これからも大切にしたいと思い、2021年には「PIETRO VISION」という形にまとめました。

 

―素晴らしい言葉が並んでいます。

「未来へ しあわせ、つながる」というのは、昭和世代の村田の口からは出てこなかった言葉だと思いますが、今の時代に合っていますよね。とにかく分かりやすい言葉にこだわっていて、手前味噌ですが「働く私たちが一番のピエトロファン」なんてすごいし、「地球の健康に貢献する」ってなかなか素敵な表現じゃないですか。こんな声を引き出せたのは、プロジェクトに情熱をかけてくれたメンバーと全社員のおかげだと感謝しています。

カリスマ創業者の後を継ぎ、自分なりの社長像を模索

―村田さんの急逝により、高橋さんが社長に就任されたとのこと。どんな状況だったのでしょうか。

村田はものすごくパワフルで元気だったので、90歳100歳まで現役だと思い込んでいました。私が先に定年退職を迎えて、「お世話になりました」と挨拶するシーンまで思い浮かんでいたんです。でも、村田は持病が急に悪化して、2017年4月にこの世から旅立ちました。私は心の準備が全くできていませんでしたし、目の前ですごいカリスマ創業者を見ていたので、自分に社長が務まるわけがないと、最初は本当にどうしたらいいか分からなくて焦っていました。

 

 

―それは大変でしたね。

村田と同じようにできないことは明らかなので、ひたすら本を読み、人に会い、そもそも経営者は何をすればいいのかと、自分のモデルとなる2代目社長のヒントを探しました。例えば、伊那食品工業の“年輪経営”に感銘を受け、塚越最高顧問に会いに行って、大いに刺激を受けました。もがきながら模索するうちに秋になり、自分が毎日何かをしなくても会社は動いている、つまり日常の仕事ではないところに私の役割があると気づいたんです。

そして毎年、創業記念日の12月9日に全社員が集まり開催していた式典で、私なりに会社をこうしていきたいという思いを初めて伝えて、“三方よし”や“オーケストラ経営”の話をしました。私にとっては長い長い8カ月でした。

創業者の言葉をつづった小冊子でDNAを継承していく

―いろいろ模索されたのですね。

創業者の思いや言葉はかけがえのない原点なので、村田が残してくれた経営基本方針と言葉を大切に受け継いでいくことも決めました。言葉というのは、一つはもともと村田の話を撮っておいた動画。もう一つは、それを文字にした小冊子「PIETRO SPIRITS」です。こちらは村田の生前からあって、2010年の30周年から35周年、40周年と再編集してきて、最新版はこのオレンジの冊子です。経営基本方針だけでは伝えられない働き方や生き方をまとめて、社員に配っていました。村田の亡き後、この語録を整理して、今は7つの項目にしています。創業者の言葉やDNAをしっかり継承していくためのツールです。

 

 

―このSPIRITSは会社のサイトに載っていませんが、社内で浸透しているのでしょうか。どのように活用されていますか。

みんな持っていて、かなり浸透していると思います。研修で使ったり、各部門で月間MVPを表彰するとき、「このスピリッツに当てはまって素晴らしい」と引用したりして、風化しないように意識しています。

 

―言語化したものをしっかり活用されているのですね。

経営基本方針は、毎週月曜の朝礼で唱和しています。先ほどお話した「PIETRO VISION」については、各部門で年度の方針を作るときに取り入れたり、個人の人事評価のシートに大切にするビジョンを書いたり、ビジョンに即した目標を設定したりしています。たとえ個人の業績が思うように出なかったとしても、ビジョンに沿ったチャレンジに真摯に取り組んでいる姿勢はしっかりと受け止めて、前向きに評価したいと考えています。

 

―PIETRO SPIRITSをひと言で表すなら何でしょうか。

うーん、私の理解では「感謝」ですね。経営基本方針に「感謝してお客様を大切にします」とあり、ここに飾っている村田が書いた書にも「感謝」が入っています。

 

 

当社では「はじまりは、一軒のレストラン」とよく言っていて、そこには最初に開店してお客様が来てくれたことに対する感謝をいつまでも忘れないという思いが込められています。お客様に対する感謝があり、もっと喜びや感動をお届けしたいという一心でここまできましたから。

 

―SPIRITSは今後もアップデートしていかれるのでしょうか。

村田本人がいなくなってしまったので、言葉を増やすわけにいかないんですよ。加えるとすれば私の言葉かもしれませんが、社長が代わるたびに増やすのは違うと思い、付け加えるつもりはありません。ただ、私の言葉は残さなくていいけれど、会社の仕組みや風土、大切にしている考え方は浸透させて受け継がなければいけないと考えています。

 

―言葉を残すのではなく、組織のあり方を未来に引き継ぐのですか。

一般論として、カリスマ社長がいると、社員はどうしても社長を見て仕事をする側面があると思います。しかし、今はお客様を見て、どうすれば喜んでもらえるのか、一人ひとりが感じ考えて行動する社風にしようと努めています。

社長になって最初の1年でいろいろ勉強する中で、すごいなと思う言葉に出会いました。弁護士の中坊公平さんが「2代目は新しいことをしようとするけど、お客さんはそんなことを望んでない」と言われていて。確かに、お客様は初代のものが良くてファンになってくれたのに、それを否定して、とにかく何か新しくしなきゃいけないと思うのは違うかもしれないとハッとさせられました。

ビジョンをアップデートし、より良い未来へとつなげる

 

―最後に、今チャレンジされていることや会社の展望について教えてください。

大きく2つあります。一つは、PIETRO VISIONのアップデートにチャレンジしています。みんなの声を聞いてから5年ほど経ち、その後に入社した社員も増えてきました。また、前回は社員だけを対象にしていて、アルバイトやパートで働いてくれている方々をパートナーさんと呼んでいますが、パートナーさんの声まで聞けなかったことが気になっていて…。とはいえ、みんな忙しいので、今回は私が自分でパートナーさんまで含めた全社各部門1300人ほどを訪ねるキャラバンを始めました。みんなでいい会社にしていこうという私の思いや熱意を伝えつつ、みんなの話を聞かせてもらいます。2~3年後くらいに新しいバージョンができたらいいなと思っています。

 

―社長が自ら皆さんの声を聞くというのはすごいですね。

ありがとうございます。もう一つは、会社をより良い状態にすることにチャレンジしています。私は二宮尊徳の「道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である」という言葉が好きなんです。また、村田は「ロマンとそろばん」という言葉を残しています。つまり、道徳や夢を持ちながらも、会社の成長を加速しなければいけない。実は、当社は売上が100億円手前でしばらく足踏みしていましたが、2024年3月期に100億円を突破し、2025年3月期には13年ぶりに過去最高の売上を更新しました。会社の風土や大切なことを継承しつつ、来年には新工場も完成するので、会社の足腰を鍛えて利益の出る体質にして、次の世代にバトンタッチしたい。その仕上げの段階に入りたいと思っています。

 

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株式会社ピエトロ 

高橋 泰行さん

1964年、東京都出身。東京外国語大学を卒業後、87年全日本空輸に入社。99年ピエトロに転職し、社長室長、取締役執行役員等を経て、2017年4月から現職。

会社情報

社名
株式会社ピエトロ
代表者
代表取締役社長 高橋 泰行さん
本社所在地
福岡市中央区天神三丁目4番5号
従業員数
社員305名、パートタイム社員418名(1日7.5時間換算の平均雇用人員)
創業
1980年12月9日
設立
1985年7月29日
事業内容
ドレッシング・ソース等の製造販売、レストランおよび直販店の経営、本社ビル等の賃貸
会社サイト
https://www.pietro.co.jp/
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