INTERVIEW

起業から10年以内のベンチャー企業が、
「こだわり」を「ブランド」に変える方法

もし、一つでも当てはまることがあれば、この記事がお役に立てるかもしれません。

  • 脱サラで起業して10年以内で、そろそろ事業の方向性が定まってきた。
  • 従業員数が増えて、創業当初からの「古参メンバー」と一体感がない。
  • 事業に「こだわり」はあるが、それを「強いブランド」に繋げきれない。

社会課題の解決を目指し、情熱をもって起業したベンチャー企業。たくさんのハードルを乗り越えつつ事業を実現していく中で、次第に目指したい方向性が明確になり、成長を加速させていきます。

創業社長として起業時から胸に秘めていた「こだわり」を、成長期を迎えた今、社内外で共有できる強い「ブランド」に昇華していくには? 都内と横浜を中心に保育サービス付シェアオフィス「マフィス」を展開するオクシイ株式会社 代表取締役・髙田 麻衣子さんに聞きました。

37歳で脱サラし、2児のママとして東京・世田谷で創業

37歳で脱サラし、2児のママとして東京・世田谷で創業

大手デベロッパー数社で会社員として働いたのち、37歳の時に起業しました。その当時、私はすでに2児の母で、「母親と子どもたちが同じ空間で一緒にそれぞれの時間を過ごせるような場所」が欲しいと切実に思っていました。それが、保育サービス付シェアオフィス「マフィス」が生まれた背景です。

 

2014年8月に創業し、東京・世田谷区の馬事公苑近くの高級住宅街で最初の事業を始めました。現在では、都内・横濱・埼玉を中心に、保育園と併設のシェアオフィスを北参道、横濱元町、横濱白楽にて3施設運営しており、更にシェアオフィスのみを練馬、大泉学園、所沢、田無にて4施設受託運営しています。

 

創業当初、「マフィス」を利用される方の大半は、フリーランスで時間や場所を比較的自由に選んで仕事ができる人たちが占めていました。でもコロナ禍を経て、企業内でもリモートワークが浸透したことで、朝〜夕方のフルタイムでしっかりお仕事したいという会社員の方からのニーズも増えています。

競争が激しく、難易度の高い事業だからこそ「理念」を重視

「保育サービス付シェアオフィス」という事業は、ある意味ニッチで、顧客ニーズの観点からいっても難易度がありますし、「保育」という極めてデリケートな要素も含んでいるため、さらにハードルが高いと感じています。

 

例えば、待機児童対策で認可保育園が増えたために、認可外の民間保育サービスは相当競争力が強くないと生き残れないという状況があります。実際、周辺では企業主導型保育園が次々と閉園しています。

 

そうした前提条件があるので、「マフィス」の事業には、それでも働く親御さんから選ばれる強い「ブランド」がなければいけないと感じていました。

強いブランドを築くための「柱」を磨く

強いブランドを築くための「柱」を磨く

強い「ブランド」を築く要素として、まずは「保育の質」があります。

 

保育の面で、私たちが目指しているのは「次の時代を生き抜く力のある子どもたちを育てること」です。今は変化の激しい時代です。その中で逞しくサバイブしていくには「自分らしさ」が何よりも大事。

 

ですから、「マフィス」では早期から詰め込み型の教育をせずに、先に社会性や自己肯定感を伸ばすことを重視しています。それによって「生きていく力」が本当の意味で身に付くと考えているからです。

 

具体的にいえば、従来の保育では、一斉保育が主流でした。朝登園してから降園まで、朝の会に始まって、お散歩、給食、トイレの時間、お昼寝と1日のカリキュラムがしっかり決められていて、子どもたちはその流れに合わせて1日を過ごします。自由時間もありますが、自由に遊べる時間も決められているのです。これは大人主体の保育です。マフィスでは「子ども主体の保育」を目指しています。お散歩に行きたい子は行く、残って園で遊びたい子は自分がやりたいことを自分で選んでそれに集中します。

 

給食の時間だよ、トイレの時間だよって言われて集中力を阻まれるのではなく、目の前のやりたいことと尿意を戦わせながら自分でどちらかを都度選択するのです。良いにおいがするな、と感じながら、でも、いまこの1つの遊びをやり遂げてから、ごはんを食べよう。はたまた、お腹が空いてもう我慢できないから、いったん遊びは終わりにしてお昼ごはんを食べる。これも子どもに選択をしてもらいたいので、昼食の開始はバラバラです。昼食前の配膳の間、子どもたちに大人しく待たせることを目的にしたお歌の時間は廃止にしました。

 

また、「マフィス」ではさまざまな創作活動も行いますが、「完成されたもの」を作ることは目的にしていません。「創作にゴールは要らない」という考え方に立っているので、絵の具をギュッと握って出したり、クレヨンをボキボキ折ったりしていてもあえて止めません。自分が手に取った物と、自分らしく主体的に関わり合うことで「生きる力」が育っていくのです。

カリスマママの教育メソッドで差別化にも挑戦

カリスマママの教育メソッドで差別化にも挑戦

「マフィス」では常に新しい取り組みにチャレンジしていますが、子どもが「できないこと」よりも「できること」に意識を向けて褒めることで、親子コミュニケーションを育む「天才ノート」を2022年度から導入しました。

 

『 天才ノートを始めよう(ダイヤモンド社)』著者の子ども教育アドバイザーでママプロジェクトJapan代表の岩田かおりさんは、累計7000人を超える親御さんが受講した人気教育法の開発者で、子どもの主体性を伸ばす「かおりメソッド」には定評があります。

 

「天才ノート」を導入したことで、「マフィス」を利用されている親子の皆様だけでなく、経験の浅い保育士が、子どもたちとの関わり方がよりポジティブなものに変化するなど人材育成にもプラスの効果がありました。

 

このように「マフィス」の保育では、子どもの主体性を育むことにフォーカスし、「余計な詰め込み」はあまりやらないように心がけています。リトミック運動などの活動も取り入れてはいますが、子ども本人がやりたくなければやらなくてもいい、別のことに興味があればそれをやればいい、というスタンスです。

多忙なお客様でも「思わず手に取ってしまう」存在感を

「マフィス」はまだ成長途上の事業でこれから達成していかなくてはいけない目標がたくさんあります。でも、その中で特に重要だと感じていたのが、「私たちがどのような保育を目指しているのか」「子どもと親御さんの仕事に対してどんな考え方を持っているのか」のメッセージ性を明確にすることでした。

 

企業理念ラボさんとプロジェクトを始動する以前も、会社のホームページには「会社メッセージのようなもの」はいろいろと書いていたのですが、改めて読み返してみると漠然としていて、具体的に何をやっているのかを十分伝えきれていないと思いました。

 

「マフィス」の一番のお客様は、日々仕事に育児に忙しく過ごされている親御さんです。そういう方々に手に取って読んでいただくには、「何か特別なもの」である必要があります。パワーポイントで作ったような資料では、捨てられてしまいそうですし、ホームページに掲載しているだけでは目に入らないでしょう。

 

そこで、思わず手に取ってしまうようなもの、読んだ後も大切に取っておきたくなるようなもので「私たちの価値」をわかりやすく訴求したいと考えました。

単なる「制作物の発注」ではない、長期を見据えた投資として

単なる「制作物の発注」ではない、長期を見据えた投資として

こうして完成したのが、このパンフレットです。制作には、理念浸透アドバイザーの方が二人三脚で伴走してくださいました。「マフィス」という名前ができる前の、事業の構想段階からずっと相談に乗ってもらっていたんです。「ママをたすけるシェアオフィス」や「子どもの近くで、わたしの時間。」といったコンセプトも、その過程で言語化していただきました。

 

 

最終的には、開業のチラシから、ロゴ、パンフレット、ホームページまで、マフィスブランドに関わる一式を依頼しました。

 

結果にはとても満足しています。お客様からの反応も上々でした。

 

実際のところ、値段は高いんですよ(笑)。こういう制作物を安く作ってくれる業者さんは他にもいくらでもあります。それでも「もう1回お願いしたい」とたびたび思います。

 

たとえば「明日打ちたいチラシ」のような、すぐに欲しいものは他の会社に頼むこともありますが、100万円単位の、長期を見据えた投資になると、創業の思いやサービス内容を深く理解しながら作り込んでくださる企業理念ラボに依頼しようとなります。ずっと形になって残り続けるものなので。企業のブランドイメージをよりよくするために、そしてそれを将来も保ち続けるために必要な投資だと思っています。

 

今回も、「横濱白楽」というこれまでの出店場所に比べるとチャレンジな場所に新しい拠点を作ったのですが、その際も制作物は企業理念ラボに依頼しました。

ただ「カッコいい」だけでは飽きられる、永続するデザインを

今回のプロジェクトで誕生した「マフィス」のロゴは、私が一番好きな花「ダリア」をモチーフにしています。

 

花が造形的に美しいし、花言葉「優雅・気品・栄華・威厳・裏切り・移り気・気まぐれ・不安定」が気に入っているんです。見た目の美しさと裏腹な人間臭さ。そういう相容れないものが一つの花に込められていて、「いいな」と。

 

子育てに仕事に奮闘している親御さんの繊細な心の機微を捉えているように思える点にも惹かれています。そういう自分の心の危うさも自覚しながら、「美しく頑張るぞ」と自分を奮い立たせながら日々を送っている。「マフィス」はそういう親御さんの味方でありたいと常々思っているからです。

 

 

正直なところ、ロゴマークを作るだけなら、今の時代、クラウドソーシングなどを利用して安価に簡単に作れます。しかし、事業の裏側にある「思い」を十分に理解し、熟成させた上でのアウトプットは、誰にでもできるわけではありません。

 

ただカッコいいだけでは、必ず飽きられてしまいます。これから先もずっと続いていく事業だからこそ、何年も使えるもの、愛されるものにしたいけれど、社内で内製するのは難しいので、プロの力を借りられたのはありがたいですね。表面的ではない、世の中にちゃんと届くデザインをしてくれるという意味で、企業理念ラボはとても頼りになる会社です。

約60人のスタッフに「ムラなく」理念を浸透させたい

パンフレットもロゴもホームページも、お客様のために作り始めたものですが、結果的には、創業社長である私が常に言い続けたきたことや、「マフィス」というブランドのコアな部分を従業員みんなに伝える機会にもなりました。

 

実のところ、私の「思い」を従業員全員に伝えるのはなかなか難しくて日々苦心していました。スタッフが保育の現場で忙しそうにしている中でいきなり理念を語り始めるのは変ですし、全社会議をオンラインで実施する際に理念の話をすることもありますが、やはり伝わり方に偏りが出てしまいます。

 

そうした時に、「いつでも見返せるもの」「手に取れるもの」の力は強いなと感じています。

 

創業時に比べると、私自身の中では「こういうことをマフィスでやっていきたい」という方向性は明確に見えてきています。具体的には「仕事を安定的に継続できる家庭環境づくり」をしたい。親御さんがあれこれ手を出さなくても、子どもたちが自主的に健やかに育っていくということが、キャリアを継続する上で一番大事だと考えています。

 

そのために「マフィス」ができることは何か?どんな保育をしたらいいのか?

 

「理念」を見える形にすることはできたので、次はそれを現場に浸透させていく方法を考えていきたいですね。

 

現在、「マフィス」には約60人ほどのスタッフがいますが、創業当初から参画してくれているメンバーと、途中から採用したメンバーに、同じ熱量でメッセージを受け取ってもらうことは簡単ではありません。

 

「理念」だけ語られてもみんなどう動いていいかわかりませんし、「ルール」だけ伝えても何を目指していいのかわからない。「理念」と「ルール」の両輪が必要で、さらに言えば、伝えるだけでなくしっかりと浸透・実践することが大事です。次はこの部分に取り組んでいきたいですね。

「企業理念ラボ」には、

企業理念の言語化や浸透策の
事例が豊富にございます。
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お気軽にお問い合わせください。

企業理念ラボにちょっと相談してみる。 | 企業理念ラボ 理念を作ったその後に、9割の企業が直面する「“浸透の壁”」を乗り越える具体的な方法と事例を解説

オクシイ株式会社 

髙田 麻衣子さん

1977年富山県生まれ。父も両祖父も経営者の家庭で育つ。大阪市立大学生活科学部卒業後、国内の不動産デベロッパー数社で勤務。仕入れ・企画・マンション販売・リーシングから、採用・教育・広報・IR・営業支援システム開発・教育プログラム開発など、幅広い業務に従事する。2014年にオクシイ株式会社を設立。保育サービス付シェアオフィスを開業。社名は富山の方言「おくしい(美しい)」に由来。プライベートでは1男1女の母。

会社情報

社名
オクシイ株式会社
代表者
代表取締役 髙田 麻衣子
本社所在地
東京都渋谷区千駄ヶ谷3丁目15-3
従業員数
61人(2022年時点)
創業
2014年
事業内容
保育付会員制サテライトオフィス運営事業、認可保育園運営、ならびに同コンサルティング事業・人材紹介事業

会社サイト
https://auxy.co.jp/

ブランドサイト
https://www.maffice.com/ 
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