INTERVIEW

ブランディングってそういうことだったのか!
創業50年目の大改革で腹落ち

もし、一つでも当てはまることがあれば、この記事がお役に立てるかもしれません。

  • 先代からの事業承継後、組織改革に着手したいがどうしていいかわからない。
  • 「ブランディング」が実際何に効くのか、投資価値があるのかピンとこない。
  • 教育・保育・介護・医療の分野で、経営にインパクトを出したい。

「ブランディングって、やらなきゃいけない気はするけど、本当のところよくわからない……」そんな本音を密かに抱えている経営者の方は少なくないと思います。

 

ブランディングに投資をして、実際に得られる効果とは何なのか?

小さくはない投資は本当にムダにならないのか?

そもそも「ブランディング」とは具体的に何をすることなのか?

 

今回は、「ブランディングの『ブ』の字も知らなかった」とおっしゃる浅利教育学園グループ 理事長の浅利 健自さんに、先代のお父様から事業を引き継ぎ、創業50年目の大改革でブランディングを成功させるまでのお話を伺いました。

父親の死後、理事長に就任し見えてきた「組織の課題」

父親の死後、理事長に就任し見えてきた「組織の課題」

父が亡くなり、48歳で理事長を引き継ぐことになりましたが、就任する前から組織内に様々な課題があることを認識していました。私はそれまで経営の実務を担当していたので、法人の方針や理念を決定するポジションではないものの、改革の必要性は誰よりも感じていました。

 

なかでも最大の課題は、それぞれの施設が独自の教育方針で運営されていたことです。法人ごと、園ごとにカラーがすべて異なる状態で一つの組織となっていたのです。

 

「個性的でよい」と捉えることもできるかもしれませんが、園の間で「教育の質」にムラがあることが気になっていました。実際には、各園長の能力や、得手・不得手が大きく影響していました。その状況を改善する一つの方策として、教育理念やビジョンを整備する必要性を感じていたことが、スタート地点となりました。

就任後、数十年に一度の大改革に着手したものの…

就任後、数十年に一度の大改革に着手したものの…

自分なりに組織の「改革」に着手したのは、理事長に就任してから1年が過ぎた頃です。まず着手したのは、ど真ん中の「教育・保育の内容」。

 

ひと言で言うと、「“teaching”から“learning”へ」と舵を切りました。つまり、大人が主導する“teach”ではなく、子どもたちが自分の好奇心に基づいて主体的に学んでいく”learn”が、これからの時代に求められる教育であり、保育であるという考え方です。

 

一部の園長には東京都内の先進的な園を見学してもらったり、遠方の研修会へ積極的に参加してもらったりしました。そうしたインプットには半年〜1年程度かけました。ただ、私たちが扱うのは「教育」ですから、通常のビジネスのように「正解」がなかなか見つかりません。実は、今もずっと勉強中です。

 

ただ、いろんな先進的な園や研修に足を運ぶ経験は、先生たちにポジティブな影響を及ぼしています。インプットを重ね、「自分たちが手がけている教育や保育とは何なのか?」と振り返りを続けることで、「『“teaching”から“learning”へ』しかないね!」とみんなが共通認識を持てるようになったからです。こうして、園長を含めた幹部職員のマインドやムードが一変していきました。

 

これらは、創設から50年目の私たちにとっても非常にドラスティックな変化でした。まさに何十年に一度の大改革だったと思います。

組織から「迷い」が消え、若手〜中堅が意欲的に

組織から「迷い」が消え、若手〜中堅が意欲的に

こうした改革の一環として、エンカレッジ株式会社の理念浸透アドバイザーの方に伴走してもらいながら、理念の言語化がスタートしました。半年かけて丁寧に話し合いを重ね、自分たちが今後実現したいことを言葉にしていきました。

 

そうして完成したのが、「あ!そう!ぼっ!」のコンセプトです。できあがった時の感想は「期待以上」でした。予想していた以上に素晴らしいものができたと自負しています。私たちが今後目指していく子ども主体の保育が「あ!そう!ぼっ!」という、誰にでもわかりやすい言葉で表現されています。

 

 

「あ!そう!ぼっ!」が制定されたことで、各方面にさまざまな効果がありましたが、やはり一番の効果は「教職員と理念の共有ができたこと」です。これまでは全園共通の理念がない中で「それぞれの園の特色を出してほしい」と伝えていたので、教職員の間には常に「これで本当にいいのだろうか?」という迷いがありました。

 

それが、「あ!そう!ぼっ!」の理念が生まれたことで各園の教職員一人ひとりが迷うことなく日々の業務に取り組めるようになりました。この手応えはとても強く感じています。

 

また、2番目の効果としては、教職員のモチベーションが高まったことです。「あ!そう!ぼっ!」の理念に共感が生まれ、新しい理念のもとで「こんなことをやってみたい!」「子どもたちと話し合いをして、新しい活動を始めた!」といった声が現場から届くようになりました。そして、特に若手〜中堅の目の色が変わりました。子ども主体の理念を掲げたことで、結果として教職員も主体的になったのは意外でしたが、とても嬉しい変化です。

親御さんから「選ばれる園」になり経営にもインパクトが

親御さんから「選ばれる園」になり経営にもインパクトが

さらに3番目の効果は、理念に共感した保護者の皆さんから「この園に子どもを入れたい」という声が寄せられ、見学に訪れる方が増えたことです。以前は、そこまで明確な理由をもって入園を希望する保護者の皆さんはいない印象でした。「自宅から近いから」「兄弟が通っていたから」「なんとなく雰囲気がよさそうだから」……といった曖昧な理由から選ばれていた感が否めませんでした。

 

しかし、「あ!そう!ぼっ!」の理念を掲げてからは、積極的に選ばれる園になったと感じています。当然、経営にも大きなインパクトがありました。

 

そして、最後に4番目の効果として、求職者の質の変化が挙げられます。「あ!そう!ぼっ!」の理念を策定してからも、採用人数自体はそれほど変わりませんが、応募してくださる学生の方の質は明らかに変わったな、と感じています。ひと言で言うと、大学や専門学校でしっかりと勉強してきたまじめな学生の方に選ばれるようになったな、という印象です。また仕事に対する意欲も高く、就職してからも着実に成長しています。まさにグループの発展を担う人材が集まってくれています。

 

逆に、あまり意欲のない学生の方は、「あの園に行ったら大変そうだから」と敬遠するようになりましたね。今後さらに少子化が進めば、他園との競争は激しさを増すでしょう。その環境下で優秀な人材は宝です。

「ブランディング」ってこういうことだったのか!と腹落ち

「ブランディング」ってこういうことだったのか!と腹落ち

それまで私は、ブランディングとは無縁の人間でした。教育業界にいる大多数の方は、そうした概念には関心がないと思います。というのも、どこかで「信念に基づいてやることやっていりゃいいじゃないか」と考えているからです。私もかつてはその一人でした。

 

けれども、やってみると「ブランディング」には非常に大きな威力があると実感しました。なぜなら、そこには明確な意図があるからです。つまり「求職者の方に対してわかりやすく伝えよう」とか、「親御さんに対して魅力的にプロモーションしよう」とか、誰に対して何をするかをはっきりさせて実行するブランディングは、大きな威力を発揮します。

 

教職員も園児も、そこに子どもを通わせる親御さんも、そしてこれから園で働こうと考えてくださっている求職者の皆さんも、関わる人みんなが一つの理念に共感して、同じ考えのもと集まっているという状態。この状態が、とても大きな効果を生むのです。これこそがまさにブランディングの力だと思います。

 

ブランディングの「ブ」の字も知らない人間が、手間ひまをかけて理念の策定・浸透に取り組んだ結果は、予想以上でした。「ブランディング」を通して与えていただいた武器は、本当にたくさんあります。着手する前はまさかこんな結果は予想していませんでしたから、感謝でいっぱいです。

経営者として「信じて任せる」を学んで姿勢がポジティブに

経営者として「信じて任せる」を学んで姿勢がポジティブに

自分でも意外だったのは、「あ!そう!ぼっ!」の策定・浸透を通じて、経営者としての自分にも変化があったことです。端的に言うと、教職員を信じて任せられるようになりました

 

以前は、「信じて任せる」ができませんでした。というのも、経営者である私自身が理念を言葉にして伝えてこなかったために、教職員を迷わせてきた面があり、そもそも「信じる」ことも、「任せる」こともできる状況になかったからです。

 

現に、周囲には「経営の話」しかしていませんでした。「理念(ビジョン)の話」をする自信がなかったのです。表現する言葉も持ち合わせていませんでしたし、そもそも本質に向き合えていませんでした。それができていない自分を心のどこかで恥ずかしいとも感じていました。

 

でも、「あ!そう!ぼっ!」ができてからは、自信を持って「理念の話」ができるようになりました。また各園に顔を出す時も、「現場をチェックする」という姿勢ではなく、「いいところを見つけて他園に共有しよう」という前向きな視点を持てるようになりました。そんなふうに、経営の視点が全体的にポジティブになりました。

「モノを売る仕事」ではないからこそ、理念の力を借りたい

教育業界はアナログな面も多いですし、広報PRやブランディングに距離を置いている経営者も少なくないと思います。でも、実際に取り組んでみて、理念の策定・浸透を通じたブランディングがこれほどマッチする業界はないと感じています。

 

保育や教育は、単にモノやサービスを売る仕事ではない以上、関わる人みんなが心から共感できる理念を共有し続けることが何よりも大切です。よい理念のもとに運営されていれば、その中心にいる子どもたちが「幼稚園・保育園に来るのが楽しくなった」と言ってくれます。私たちの園ではまさに子どもたちのそうした変化が起きました。同じようなことに悩んでいる保育・教育関連業界の皆さんにもチャレンジしてみていただきたいですね。

「企業理念ラボ」には、

企業理念の言語化や浸透策の
事例が豊富にございます。
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学校法人浅利教育学園 

浅利 健自さん

北海道で幼稚園・保育園を経営。48歳の時、理事長を務めていた父の逝去にともない理事長に就任。その後、待機児童の増加を背景に施設数を倍近くまで拡大した。現在、道内で13か所の認定こども園、保育園、幼稚園などを運営する。

会社情報

社名
学校法人浅利教育学園・社会福祉法人明日萌・学校法人自由創造学園浅(利教育学園グループ)
代表者
理事長 浅利 健自
本社所在地
北海道札幌市白石区北郷3条3丁目8番15号
従業員数
約300人(2021年時点)
創業
1968年4月1日
事業内容
認定こども園・保育園の運営、一時保育・障がい児保育
会社サイト
https://www.nissho-asumoe.com/
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